いろいろなうた松岡尚子

春服の青年像の下半身なしさらば青春と塚本詠みぬ

音高く花火は上がり恋の身を尽くすとうたう中城ふみ子

死はそこに抗いがたく立つゆえにひと日いづみと上田三四二は

桃食いて去りゆく夏を惜しむひと石川不二子をめぐる四季あり

生き死にの外なる橋をわたるとう築地正子イデアの世界

祐次氏の葬儀  佐野豊子

火葬炉の順番八日も待たされて小さな顔の兄(にい)さんさよなら

ご遺体は義兄の魂が脱ぎしもの棺の横の遺影に親しむ

一条の涙がマスクに消えていくアクリルボードの姪を見つめる

宣告は余命一年あたたかく病身さすりし妻娘の手のひら

電話にて姉に頼まる「順番に死のうね」なんて返事にこまる

お宮さん 松岡尚子

リズミカルに君は薔薇より美しと今日布施明テレビにうたう

文化祭にお宮で登場寛一に蹴られた布施君爆笑受けぬ

ステージに演奏をするブラスバンド彼のフルート音色の優し

思い出は雪合戦と武蔵野の木造校舎の暗き廊下と

中学の布施君少し照れ屋にて教室前に女子が騒めく

激辛ラーメン 松岡尚子

カウンターに前屈みなるカップルが激辛ラーメン食べる昼時

口の中炎と燃えているのかな激辛ラーメン美味しと青年

隅田川の花火すーっとぱって感じ辛味例えておみなご笑う

浴衣着るおみなは辛き豚挽きとタカノツメ多き台湾ラーメン

人気ある蒙古タンメン赤きつゆ野菜おしやりおのこ飲みたり

『かるがも』 松岡尚子

身のうしろ十一羽の子を引き連れて親鴨が行く梅雨明けの昼

高き壁上がらんとして子は落ちぬ親がも道替え側溝を行く

仕方ないことはやっぱり仕方ない来いと言われて従う小鴨

かるがもの親子側溝あゆみ行きひょいと上がりて草原を行く

かるがもの親子よちよち白いつめの花を揺らして川へと急ぐ