昭和37年19歳のころ大学文芸誌投稿作品     mohyo

灰色の雲徐々に徐々に集まりて視界にゆるる
白きおいらん草
亀裂する雲間より見ゆる橙色のメッキの月は
マヌカン照らす
人居らぬ教室の中黒板にかきなぐりの文字
ありて静けし
出生の秘密を知らず育ち来し混血児K君
美しき瞳もつ
ポツポツと音は切れつつ曲となる白き鍵盤に
母の手ありて
ユニホームの赤き色もよしポーランドの選手団今
我が前を行く
理由なき憂いもあるか水たまりの雲見つめつつ
友待つひととき
疎ましき日曜の午後一人居て五月雨の音を
あらためて聞く
漏れさせる光をかへす蜘蛛糸のやはらかくして
意外に切れず
えびがにが片手をあげる恰好(さま)なしてノッコリノッコリ
道を横切る
隆起せし胸誇るごと雑踏に女たたずむ夜の立川

高瀬舟   松岡尚子

介護付きマンシヨンの中清掃をすればなつかし介護の仕事
焦げ飯にぴったりの味ビビンバを話題となしてタイムカード押す
古びたる本を手に取る『高瀬舟』短編なれど印象深し

秋扇    JUN

湯煙の鏡を拭ふ夜長かな
午後の日やひとりで摘まむ黒葡萄
伏せし本開きしままの秋扇
ひとはみな星屑なりし天の川
苦瓜の葉の触れ合ひて薄日透く