梅咲くや急かず気負はず凛として
桃の花吾を窺う童子あり
猛き者疾く滅びよと涅槃西風
女たちの子守歌 みなみ恋し ふるさと
梅咲くや急かず気負はず凛として
桃の花吾を窺う童子あり
猛き者疾く滅びよと涅槃西風
夫の鼾高き夜半かな一人生を誤らしめし戦争を憎む
引く潮は岩くぼを急ぎ下(くだ)りゆき押し来る波と
白く揉み合ふ
打ち上げしかじめの散らふ砂深き太海(ふとみ)の磯を一人しゆくも
夢ひとつ受けたる心地水仙の球根の袋手渡されつつ
ベッド横に腰掛けふいに寂しかりいとも酷なり老孤といふは
本当に生まれて良かったと思ふかと吾子は問ひたり乙女さびたり
勝敗がすべての如き現実の人間といふを時に憎めり
老母と今年もさくら見上げつつさくら並木を去りがたくをり
大声でひとりごといひ女行く背にさくらばな幾ひらつけて
暗雲に蔽われてゐる満開のさくら眼に顕つ白白として
夜桜にこころわななくICUの酸素マスクの母を思ひて
蝶を曳く蟻の続かる足元の土すでに温もる六月の朝
朝の庭に蝶の骸の曳かれゆく立てたる羽根に風を受けつつ
柚子の葉の緑に染まり這ふ虫は綿毛のごとき白き巣を作る
開き置く窓より入り来揚羽蝶古びし壁に絵となり止まりぬ
紫陽花の花鞠青く薄紅にでで虫這へば白蝶の舞ふ
ごみとして捨てられしかくはがたの開けしままなる大き角なる
みちをしへあるいは吾に方角を故意に過ち導き来しや
客ぶとん仕舞いて猫にかたりかく
「お盆がすぎてまた君と二人」
(オリーブ)
原作
人に言うごとくに猫と語り合う「お盆が過ぎてまた君と二人」
(アドバイス)
人に言うごとくに はいらないのでは。下句で猫に語りかけていますから。
作者
猫に語りかけている自分に可笑しくなりました。
作者
息子夫婦が上京してにぎやかでしたが、帰ってしまいました。その時のうたです。
ひゃら
ほっとした気持ちと淋しさが入り混じった歌でしょうか。
作者
客布団を仕舞ったり用事は、ありますね。
ひゃら
客ぶとん仕舞いて猫にかたりかく「お盆がすぎてまた君と二人」
作者
それで良いと思います。
如月の泥を付けたる葱を買ふ
春めくや時過ぎ行きて子は母に
ひとりぼつち二月の風が雲を追ふ
川の字に布団干されし寒の明け
窓掃除終へし窓辺の物芽かな
三十歳(みそとせ)を通ひし小道日脚伸ぶ
風花が「三億円の道」に舞ふ
み空晴れ山茱萸の黄濃くしたり
96年の作品
内暗く老樹の立つを境界に外人墓地をUターンせり
楽(がく)にのり世界各地の人形がわが前を通る平和なるかな
国分寺よりタクシーに乗りナイターを知らざる若き運転手に会う
忠実に今年も咲ける福寿草花数殖えていきいきとせり
施設より借りし自転車前かがみの若向きの故われには合わず
おのが身の一部とはなる自転車を自分の金で買わんと決めぬ
朝より夕刻までを待ちくれし駅の自転車にごめんねと言ふ
夜を継ぎて粉雪降るに自転車はこほれる如く我を待つなり
寒ければ自転車止めて自販機の缶珈琲で手を温むる
飲み終わりし牛乳壜の感触をくちびるにあてふわーんとあくびす
石の上のトカゲのような緊張感とけずとけない母看取る日々
桃咲けど根雪のさむさ温かさ疲れはかすか人遠ざける
日だまりはポンカンポポン布団ほすヘルパーさんの声こだまして
遭難者ヘリにて運ぶ雪山の映像見つつふと涙でる