集落の遺跡の道の石みだれ吾はも聞かん生活(たつき)の響き
集落はトルコ遺跡の石の家悠遠なる影西日のつくる
アメリカの音楽、文化をあびし身は住めぬよトルコの
遺跡見てたつ

女たちの子守歌 みなみ恋し ふるさと
集落の遺跡の道の石みだれ吾はも聞かん生活(たつき)の響き
集落はトルコ遺跡の石の家悠遠なる影西日のつくる
アメリカの音楽、文化をあびし身は住めぬよトルコの
遺跡見てたつ
魔のようなリハビリ病棟母の足二回脱臼そして大けが
全身が他人になるほど輸血されICUに母生きている
ざらにある転落事故とう大天(おおあま)の神々ならび詫びてはいるが
「うう寒い」背後の窓に日はのぼり咲くよ沖縄明けもどろの花
女傘さして自宅へ走り梅雨
丸太橋渡る危ふさ花菖蒲
紫陽花や蛇の目の傘に巫女ふたり
傘の柄を抱きて歩む梅雨入(ついり)かな
裏庭の十薬遂に表まで
短歌と感情(昭和四十三年五月十八日) −長狭高校講演速記録より抜粋
名をあげてストーブおくれよと笑いつつ師がいえばわくストーブおくれよ
「名
をあげてストーブおくれよ」っていうのは、つまり有名になって偉くなってこの学校にストーブを寄贈しろよと先生がおしゃったという意味である。今、君たち
は定時制の生徒だけれども、一所懸命に働いて有名になってお金持ちになれ、立派になれ、そして立派になったら君たちよ、今この寒い教室にストーブを寄贈し
ろよとおっしゃった。そしたら、みんなが、どっと笑った。
こんな歌、皆さんは、いい歌だとは思われませんか。僕はとってもいい歌だと思う。この作者は今はお母さんである。お母さんになっても歌を作っている。だんなさんは自動車の運転手をなさっているらしい。
お二人は良く喧嘩するらしい。夫婦喧嘩を。喧嘩をしても、怒っても、彼も一所懸命にお客さんを乗せて、努めて、神経を使って帰って来るんだなあと反
省する らしい。そういう歌を作るんです。そして単純に喧嘩なんかしちやいけないななんてそんな歌も作ったりつまり雄雄しく生きて行っているのである。
この女生徒は、今 二十二、三歳になり雄雄しく働いている基礎には、歌をうたい歌を作るということが、根本にあるのではないか。歌うことによって、生まれながらの純粋が甦ってきて、その人間をまた新しい力強いものに立て直してゆく。
つまり、人間の輸血のような力が、歌をうたい歌を作るという行為の中にあるようなきがするのである。

勤めゐし機屋の跡地に夏草の生えて一夜を機織虫の鳴く
蜘蛛の巣に捕はれし黄の蝶動く循環バスの発着所
ただという循環バスを待つ間蜘蛛の巣の黄蝶は食べ尽されたり
帰宅せし庭の暗き舞ふ蝶を待つ蜘蛛見上げる小さな蜥蜴
家墓を沈めるダムの喫水線山の中腹示しつつ言ふ
年金の安き吾なり墓石も安値なる外来物を妻は諮れり
去にし後煙草に焼けし吾が家の有りたる夢に亡き父母伴ふ
歌と感情(昭和四十三年五月十八日) −長狭高校講演速記録より抜粋
充血せし眼が痛しと涙たむる電熔工の友とならんで学べり
昼間電気溶接をして働いている友だちと席を並べて学ぶという歌でえある。
私は日本で一番大きな定時制校だという学校の校歌を作ったことがある。その学校の見学に行った。ある教室の外を廻っていると一人の生徒が眠っており隣の生徒は黙って学んでいた。先生も黙って講義をしておられた。
眠っている生徒を起こせば良いのだが隣の生徒は疲れているんだからと起こさない。先生も二人の生徒を黙認して授業を進めておられる。学んでいる生徒は、自分で勉強したノートを後で寝ている隣の友人に見せてやるんでしょうね。
授業が終って夜の遅い廊下なんかで会うと、皆がキチンと挨拶をする。「さようなら」 「失礼します。」とか。許しあう世界、いたわりあう世界、礼儀の世界がちゃんとある。
その後校庭にこうこうと電灯をつけて男女生徒何百人が「佐渡おけさ」他を歌いつつ踊ってみせてくれた。実にきれいだった。若い団結というのはあんなに奇麗なものかと思った。その後壇上に立たせて頂きブラバンの行進も見た。堂々と行進した。
そのあとで生徒諸君と座談会をした。
「どういう校歌を作ってほしいのかあんたたちのきぼうをいいなさい。」そのとき「実は先生さっきの楽器はぼくらが買ったんじゃありません。この学校のそばにある工場からもらったんです。」
「音楽も先生から習ったんではありません。ぼくら、よそのつまり昼間の学校のブラスバンドをもっている学校に録音機を持って行って、採ってきた。そのテープを学校に持ち帰りそれで勉強した。古い楽器の壊れているところは直し自分たちで採取し、本日聞いていただいた
程度の隊伍を組んでやるところまできたのです。」
何処に出しても負けないバンドであり奏楽であった。
私は感動して、そこの学校の校歌を作った。
為政者の間引きそこねの生き残り釘箱の釘虚空の滴
埃っぽい部屋に色紙紙風船しわぶき太い夜の住人
知らないと痛み覚えぬこと多く散文的な黒い子守唄
乾かないままで割れてる夢の夢乾いた虹は鮮しい夢
夕暮れがそこだけ残り白日のキャンパス描く不安定の属性
壁際の振り子が揺れてる青い闇回転ドアの赤い循環
不安定な老いゆくものの残像が呟いている無機質の淡
写真提供 【正】 さま
春雷や微かに起きし旅心
桃の花吾を窺う童子あり
傅(かしず)くや夏座布団の赤ん坊
湯上りや万歳して寝る裸の子
裏庭に父の影なし柿若葉
「うど」つまみほーと落ち着く 忙しく「うど」の皮むく夕餉のくりやに
バロックの音楽聞こゆ虫たちの羽音のような草匂うよな
水道水なれどこの朝春めきぬ耳の裏まで洗ってみれば
滞るお礼の手紙まだ書けず花の春はや鬱に苦しむ
海水が盛り上がりくる恐怖感ちいさな島は八方が海
惜しげなくやんばるの樹々切り倒しつくられし道路走るも
われら
沖縄につつじ山あり土匂う本土の土を盛りて咲かせる