梓川  井手麻千子

樹々の間を赤ゲラ行きつ戻りつす

息のみ見守る小淵沢の宿
(井手麻千子)

原作

赤ゲラが行きつ戻りつ樹々の間を息のみ見守る小淵沢の宿

ひゃら
珍しい鳥を見たときの心躍りがつたわります。

表現がぶつぶつ切れて言葉の省略が気になりました。

作者
宿の窓から赤ゲラを見つけたときは感激でした。友人と息をつめてみていました。

ひゃら
見たもの、感激したものを、率直に歌いだすことは、よいことです。まず歌ってみる。そのあと、言葉のつながりや、律、意味がつたわるか、推敲が大切です。

作者
いろいろ考えました。

ひゃら
語順や意味からゆくと「樹々の間を 赤ゲラ、、、、」と歌いはじめると安定してきます。

ひゃら
歌は散文ではありませんが、この歌の場合は、赤ゲラが行きつ戻りつ(スル)という動詞が省かれています。

語順をかえることで「戻りつす」と動詞をいれることができます。

作者
語順をかえることを学びました。

浮雲  佐野豊子

誰からも遠ざかりつつ火のついた浮雲のよう足暖める

断罪をくだして樫をかなします魔物めきたりわたくしの声

あけぼのの目覚めの鴉かわかわと幼いままに濁声に鳴く

意味もなくなつかしくなる向日葵の茎の太さに真夏の昭和

夢に見しもの   mohyo

クリップの6個が2列に並びゐてクリップパクパク歌ふ夢見つ

亡き祖母が吾(あ)の枕辺で帯を解く夢より覚めて泣き心鎮む

大き魚(うお)に吾はまたがり糸満の湾に着きしが魚死にし夢

夏  mohyo

ハーレムの壁に描かれて金魚らは金魚鉢抜けジャンプキスす

真夏日を冷え冷え電車降り立てば新宿駅のホームがぬくし

微動だにせぬ風鈴ようだるよな暑さ気温は39℃と

海蛇  佐野豊子

みずからを海蛇という宮古人海人の娘仙台に住む

火事のよう西雲は燃え声はなし華ある舞いを魂の舞を

脇役の茶の花でいいイヤ違う二つ心に青月あおぐ

誰かいう少数族のアボリジニー熱湯のごと人寄せ付けず

牛蛙

対岸の牛舎に届け似た声で
梅雨だつゆだと牛蛙鳴く
(小見山みよこ)

原作
対岸の牛舎に届け似た声で梅雨に入ったと牛蛙鳴く

ひゃら
梅雨にハイッタと読まれましたね。

作者
四句目が気になっていろいろ考えたのですが。

ひゃら
歌を愉しむチャンスです。リズムよく鳴かせたいですね。

作者
もう梅雨だなと私が思ったのです。

ひゃら
「梅雨だつゆだ」はいかがですか。

作者
それがいいです。それにします。