コバルトブルー  羽根花子

夕空をコバルトブルーに染め上げて
台風の雲走りぬけたり  (羽根花子)

原作
台風の雲走りぬけ夕闇をコバルトブルーに染め上げて

ひゃら
「染め上げて」は5音。字数が足りないですね。

作者
「コバルトブルーに染め上げて」と一息によみます。

ひゃら
それでは、上下句をいれかえてみましょう。

ひゃら
台風の雲が去ったあと、何が、夕闇を染め上げているのでしょう。

作者
コバルトブルーの空が。それはそれは美しかったのです。あ、空がいりますか。

作者
夕空をコバルトブルーに染め上げて台風の雲走りぬけたり

作者
上下句を入れ替えてみるのもいいですね。

眠たくて  佐野豊子

神の御手しずかに母をつつむらん周りの人をだんだん忘れ

雲うかぶここはどこかなちんちろりん虫鳴く夜の新秋津駅

眠たくて脳天の上の三日月にすみぬるような黒い横雲

赤き闇  JUN

一隅に赤き闇あり彼岸花

終電の去つて小振りの月残る

松茸を買ふや季節に背を押され

十月の五臓六腑に気は満てり

鰯雲心の襞のあるやうに

新涼や老いの手習ひ周に秘


夕ざれの日を受け止めて柿簾

ちんぷんかんぷん  佐野豊子

いつか死ぬ夜のかがやきか野花より発光したり蛾のりんぷんは

ひふ癌のがんこに消えることもなし母のかたほほ黒点育つ

終生をささえつづける弟(おとと)さえ母は花木瓜ちんぷんかんぷん

写真数枚  オリーブ

姑の行く老人ホームはワンルーム
持ちゆくなかに写真数枚
(オリーブ)

原作
姑の行く老人ホームはワンルーム持ち行く物に数枚の写真

ひゃら
「持ち行く物に」では、写真だけもっていくように強調されますので、「持ち行くなかに」ではどうでしょう。

ひゃら
「老人ホームは」と「数枚の写真」は8音、破調になっています。

ひゃら
「老人ホーム」は名詞です。長い名前もありますので、破調になるのは仕方ないですね。「高齢者ホーム」ともいいますね。

ひゃら
「数枚の写真」は「写真数枚」と語順をかえ定型の7音をまもることで、歌が締まります。
散文と歌のちがいです。定型にしましょう。

作者
破調でもいい場合と、
語順をかえて、定型をまもることを学びました。

豊子

手毬  佐野豊子

哀しみをけとばしている入院の母のかたえに向日葵として

転院をすすめる医師と聞く家族てんてん手毬の母ホームレス

聖書には発見多し「初めに言があった。言は神とともにあった。」

ムエタイ  佐野豊子

ムエタイの脚のながさは差身なしの魔裟斗(まさと)の腹を蹴りつき勝利す

沈黙のハイビスカスは炎天下たちまち勢うバケツの水に

廚ごと苦手なりしを主婦という隠れ蓑にてわたるハネ橋

伝説  mohyo

洋式のトイレ希望す足長の少女はスタイル、吾は膝痛で

伝説を妹言ひぬ白髪の母に黒髪のあまた生えきて

その夫を「ツレ」「ダンナ」とふ車内にて「連れ合ひ」といふひびき吾に沁む

口笛  JUN

いとど跳ね足一本を残しけり

一山を絡め捕らへて葛の花

釣瓶落し口笛吹いてゐてひとり

月島に夕餉のあかり秋簾