黒雲動かず 佐野豊子

眠りこけ〈医療現場〉のコラム欄膝よりずり落ち読み残したり

今宵また黒雲動かず月見えず教えてほしい哀しみの忘れかた

この冬に稽古場手放す舞の人ひのきの床を膝つきみがく

家中のふすま ガラスがどうぶるい自衛隊ヘリは落ちてきそうだ

三姉妹思いおもいの窓をあけ流星群をみていた若さ

トルッロ      NAOKO

幼き日おとぎの国にあこがれぬ日差し明るいアルベロベッロ

オリーブとブドウの栽培トルッロとう円錐家屋に人々棲みて

石灰岩丁寧に積みし円錐の屋根に付けらる厄除け飾り

憧れのトッルッロ1000軒そこだけが白きオアシス光が満ちて

イタリアの南部に生れしトルッロは白壁眩しくこころ魅せらる

雪の富士   JUN

伊豆の空どこまで行けど雪の富士

鷹揚(おうよう)に伸びする猫や漱石忌

百名山踏破の友や枯野行く

喪中葉書また来てをりぬ霜の夜

托鉢の僧が佇む師走かな

雪国    NAOKO

古いなあと友に言われたこともある今でも好きだ「雪国」の駒子

ニュースにて越後湯沢に雪ふれば今にも駒子が現れそうで

さりげなく「今何時?」と彼に聞く大谷直子の駒子なつかし

トンネルをくぐりて帰るその人に手振り別れぬこころ痛みて

実りなき徒労と知れど正直な瞬時のこころに賭けし駒子は

温め酒    JUN

温め酒ひとには告げぬ思ひあり

秋しぐれ時間は決めぬ待ち合せ

アルプスを遥かに望み葡萄棚

サクソフォン秋の窓辺を流れくる

秋の灯の過去へ流るる車窓かな

新しい手帳   佐野豊子

新しい手帳が届く銀表紙この世のことにまだつながっている

棚にある琉球ガラスのピアスして逢えるだろうか琉球人(レキオス)の祖に

評判のお萩を息子は求めきて「注射わすれず打って」と念押す

わたくしと背丈は同じ150センチ「日本経済の父」渋沢栄一

秋の月の画像を見つつ旅に出たいでたいでたいで脈拍乱す

短歌研究11月号島田修三選 mohyo

住みやすき所のあかし貝塚は古代人偲び市川に住む

最近不安な毎日で提出したつもりでしてなかったりする。肝臓が悪い腎臓がわるいとそうなるのかな。二つの臓器は悲鳴を上げることなく多くの働きをしてくれているほかの臓器はひめいをあげるのに。