悲しくて歌をつくれぬ日々を経てわれは身体でもの思ふ者
短歌年鑑(短歌研究12月号) mohyo
若き父「出征は明日」と母の手を初めて取りぬ椰子の木の下
足の甲太もも腹を温めて眠る蒲団に母の気配す
陸軍の支援を受けて軍医なり沖縄ゆ台湾に来し貧しき父は
炭火炬燵 空っ風
若き父母我ら幼し冬の夜は炭火炬燵(こたつ)を囲む〈家族〉でありき
短歌研究11月号佐佐木幸綱選 mohyo
土手を行く夜景の中に青く見ゆスカイツリーに月も出できぬ
衝撃 空っ風
レーザーを射つ瞬間の衝撃は眼底に重き疲れを残す
短歌研究10月号佐々木幸綱選 mohyo
歌詠めと勤務せし吾に亡母言ひき歌詠むときは豊かなるよと
鰯雲 JUN
逆上がりできぬ子とをり鰯雲
星祭り瞬くほどのわが命
冷ソーメン濡れたるままの卓に喰ぶ
訃報受く静かに閉づる秋扇
戦後史 空っ風
戦後史はたとへば「りんごの唄」のごと脳裏に深く刻まれてをり
短歌研究9月号高野公彦選 mohyo
葉漏れ日に耀ふあぢさゐ新聞で宮英子氏の訃報を知りぬ
「コスモス」に遺せし母のうた読まな山吹き色のふろしき解きて
きのふまでその目、口して長崎の海泳ぎゐしとイサキ見てをり
教会で 松岡尚子
祖父母より代々を来し教会で福音を聴きて過ごしぬ日々を