小さき文字眼鏡を上げて眼を細め読むこと多し七十のわれ
短歌研究1月号高野公彦選 からっ風
トンネルを抜けて雪降る越のくに越後訛りの柊二師偲ぶ
雪ふかき湯治の宿の<霊泉>にひねもす浸るけふは立春
大嘗宮 JUN
冬晴れや大嘗宮の千木(ちぎ)の空
焼き芋の熱さ分け合ふ風呂帰り
冬温し機械の声はみな女声
献血をできぬ齢や玉子酒
旅立ちや街灯灯る冬の朝
電子辞書 NAOKO
靴下も履いてしまった出るしかない団地の集会夕暮れ時を
新しきボーイフレンド才あれど少し短気だ名は電子辞書
黙読に慣れ来し我に辞書からの歌人の音読茂吉を聞けり
キッチンに座りておればテーブルの茹で玉子がつと「たべないの」と聞く
本棚の『赤光』見れば旧制で昭和と書かれわが若き文字
彼方青海 佐野豊子
人はみな悲しみの器。さりながら祈りの卓にフルーツかおる
幾たびのしきりなおしか隠退の老牧師いてその妻われは
ご先祖にうーとうとうと幅広の沖縄線香たて祈る人
集落をまもる備瀬の福木道みどりこみどり彼方青海
小説 NAOKO
礼拝の席に祈りを捧げいる黒づくめの女(ひと)誰かと思う
山小屋のベランダに立てば八ケ岳遠目に見えて病む人(ひと)思う
血縁の強さにややも嫉妬する彼女が父を慕う姿に
影のごと主人公に添い読みゆけば内向きなれど芯強き人
風立ちて枯葉幾ひら重なれり季節思わせ小説終わる
短歌研究年鑑 mohyo
家族らと共に歩みて墓参する段差のところは支えられつつ
洞窟で見つからぬやう母親が子の首しめし沖縄決戦
殺されし子らとわれとは同年代沖縄思ひて夏日浴びをり
武蔵野市短歌大会入選 からっ風
戦後期の闇市の面影(かげ)残す商店街(まち)ハモニカ横丁賑はひてをり
短歌研究11月号佐々木幸綱選 mohyo
温き茶を飲みつつ思ふ背を伸ばし今は稽古ぞ心しづめて
大き円たどる思ひで両腕をゆったり下げて動かし始む
押されても動かぬ腰を感じ取り太極拳の楽しさに生く
短歌研究11月号佐々木幸綱選 からっ風
母の死を聴きて故郷へ急ぐべし始発電車を待つ時間長し