冬晴れ  佐野豊子

冬晴れに〈清バス〉が来るよろよろと一期一会の二、三人乗る

もういない農家の庭の落柿さえ食べたかったひもじい少女は

金婚の夫婦が散歩に誘い合いあっちとこっちへ歩きだすなり

食前の祈りは三人まわりもち「カレーが冷める母さん長すぎ」

正月も感染力はパワフルで『コロナ禍歌集』まだ現在形

春立つ光  JUN

まだ固き二月の土に鍬を入れ

春浅し買ったばかりのスニーカー

春泥に歩を進めてやなほ生くる

武蔵野や春立つ光なほ淡し

雪降ってアルトサックス鳴く夜かな

長谷川祐次兄  NAOKO

結婚の承諾受けんと訪ね来て父母に向かえりかの日の義兄

炬燵にてリラックスする妹ら彼の言葉に緊張したり

県立の校長たりし若き日に宮柊二のもと歌にはげみぬ

喪主として姉は立ちたり挨拶に夫のもので捨てるものなしと

讃美歌を歌い祈りぬ兄妹ら兄の棺に胡蝶蘭を納む

破船    佐野豊子

帰宅して四方八方虫の音に野たれ死にした気分にひたる

冬の草ぽきぽき折れば燃えるゴミ今宵の満月澄みはてて寒む

暮れ方に遠い連山燃えている影絵のなかゆき寿司などを買う

稽古場は破船となりて売られたり後継者なく資金も尽きて

未練なり琉球人形いろあせず恋の「綛掛け」(かせかけ)永遠に舞ませ

今朝の春   JUN

カーテンを引けば溢るる今朝の春

手料理で子待ち孫待つ三日かな

三世代の餅の真白を並べ焼く

初春や小江戸にゆるき時流れ

多摩川に今年の幸を願いけり

ウクライナ戦争 NAOKO

避難する幼女がひと言「死にたくない」他国といえど身につまされぬ

孤立するプーチン思うロシアにも反戦デモが拡大しつつ

不気味なる警報音や首都キエフに軍が迫りぬ爆音ひびく

ロシアへの経済制裁第三次世界大戦起こらぬように

ドイツの壁崩壊のとき東側に家族と棲みしプーチンなりし