福寿草    JUN

年迎ふ生くる証の紅を引き

頑張らぬことと日記に福寿草

湯冷めして髪すきし子も母となり

不織布(ふしょくふ)を塞いでをりぬ初氷

夜明け待つゆず湯の柚子に囲まれて

大嘗宮     JUN

冬晴れや大嘗宮の千木(ちぎ)の空

焼き芋の熱さ分け合ふ風呂帰り

冬温し機械の声はみな女声

献血をできぬ齢や玉子酒

旅立ちや街灯灯る冬の朝

電子辞書    NAOKO

靴下も履いてしまった出るしかない団地の集会夕暮れ時を

新しきボーイフレンド才あれど少し短気だ名は電子辞書

黙読に慣れ来し我に辞書からの歌人の音読茂吉を聞けり

キッチンに座りておればテーブルの茹で玉子がつと「たべないの」と聞く

本棚の『赤光』見れば旧制で昭和と書かれわが若き文字

彼方青海    佐野豊子

人はみな悲しみの器。さりながら祈りの卓にフルーツかおる

幾たびのしきりなおしか隠退の老牧師いてその妻われは

ご先祖にうーとうとうと幅広の沖縄線香たて祈る人

集落をまもる備瀬の福木道みどりこみどり彼方青海

小説  NAOKO

礼拝の席に祈りを捧げいる黒づくめの女(ひと)誰かと思う

山小屋のベランダに立てば八ケ岳遠目に見えて病む人(ひと)思う

血縁の強さにややも嫉妬する彼女が父を慕う姿に

影のごと主人公に添い読みゆけば内向きなれど芯強き人

風立ちて枯葉幾ひら重なれり季節思わせ小説終わる

短歌研究年鑑   mohyo

家族らと共に歩みて墓参する段差のところは支えられつつ

洞窟で見つからぬやう母親が子の首しめし沖縄決戦

殺されし子らとわれとは同年代沖縄思ひて夏日浴びをり