ヘアピン 松岡尚子

夜の風雨も混じりて吹き来るに傘を差しつつかなしみ抑ふ

枝垂れ梅今し咲きたりほのぼのと朝光及ぶと告げむ人なし

ヘアピース小さきを加へブラッシングすればわが髪豊かとなりぬ

永き日

老いの身を徐々に知りゆく年となり口紅少し濃ゆくさしたり

永き日を迷へる子羊いつの間にか五十を過ぎて独り立ちゐる

パンフレットの高山植物千葉駅の構内に見つけしばらく眺む

尚子

短歌教室 案内 佐野豊子

清瀬短歌サークル 若干名 募集

定員     12名 現在10名

場所     清瀬駅前 アミュー6階

日時     月一回  第一金曜日 13:00〜

講師     佐野豊子
現代歌人協会員
日本歌人クラブ会員
結社     かりん
歌集     第一歌集『炎の藻群』
第二歌集『ていだ(太陽)』
℡0424−92−3045

短歌教室

清瀬短歌サークル 駅前生涯学習センター「アミュー6階」

月1回 定員12名 現在10名   講師 佐野豊子

(塚本治子)
カレンダーに友と逢う日をうめていく娘よ吾との時間も欲しい

(武山いちゑ)
落慶の法要済みぬ冬晴れの庭に信徒ら昼食(ひる)をよく食ぶ

(小見山みよこ)
雨つづき野鳥も鳴かぬ那須の里ダチョウ料理で気を晴らしおり

(坂口文子)
区画ごと球形長四角と整備され箱庭のよう小室のつつじ

(井手麻千子)
一陣の涼風ありて風鈴のこわれ鳴らないことに気づけり

(羽根 花子)
うす紅のほのかな椿に魅せられて一枝手折りぬ名は春曙紅(しゅんしょくこう)

(米澤繁子)
心せば出てこぬ歌もくりやにて水音のなかに時にいで来る

(戸島政夫)
鯉のぼりのたうつごとく泳ぎおり何処へいくかを言えば放たん

(篠崎玲子)
札幌の五月の空を綴りたる卆寿のおじの筆みだれおり

傘   JUN   

女傘さして自宅へ走り梅雨

丸太橋渡る危ふさ花菖蒲

紫陽花や蛇の目の傘に巫女ふたり

傘の柄を抱きて歩む梅雨入(ついり)かな

裏庭の十薬遂に表まで

六月   hataoto

Sierra Exif JPEG

勤めゐし機屋の跡地に夏草の生えて一夜を機織虫の鳴く

蜘蛛の巣に捕はれし黄の蝶動く循環バスの発着所

ただという循環バスを待つ間蜘蛛の巣の黄蝶は食べ尽されたり

帰宅せし庭の暗き舞ふ蝶を待つ蜘蛛見上げる小さな蜥蜴

家墓を沈めるダムの喫水線山の中腹示しつつ言ふ

年金の安き吾なり墓石も安値なる外来物を妻は諮れり

去にし後煙草に焼けし吾が家の有りたる夢に亡き父母伴ふ

振り子    寛 

為政者の間引きそこねの生き残り釘箱の釘虚空の滴

埃っぽい部屋に色紙紙風船しわぶき太い夜の住人

知らないと痛み覚えぬこと多く散文的な黒い子守唄

乾かないままで割れてる夢の夢乾いた虹は鮮しい夢

夕暮れがそこだけ残り白日のキャンパス描く不安定の属性

壁際の振り子が揺れてる青い闇回転ドアの赤い循環

不安定な老いゆくものの残像が呟いている無機質の淡

写真提供 【正】 さま

童子   JUN

春雷や微かに起きし旅心

桃の花吾を窺う童子あり

傅(かしず)くや夏座布団の赤ん坊

湯上りや万歳して寝る裸の子

裏庭に父の影なし柿若葉

六月   hataoto 

蝶を曳く蟻の続かる足元の土すでに温もる六月の朝

朝の庭に蝶の骸の曳かれゆく立てたる羽根に風を受けつつ

柚子の葉の緑に染まり這ふ虫は綿毛のごとき白き巣を作る

開き置く窓より入り来揚羽蝶古びし壁に絵となり止まりぬ

紫陽花の花鞠青く薄紅にでで虫這へば白蝶の舞ふ

ごみとして捨てられしかくはがたの開けしままなる大き角なる

みちをしへあるいは吾に方角を故意に過ち導き来しや