・夕闇に海の匂ひぞ川風を受けつつ橋を渡りゆくとき
・店の蜜柑黄に変はりゆく虫すだく窓の外にも秋の来てゐて
カリヨン JUN
・カリヨン主宰市村究一先生逝去
・カリヨンの響き残れる枯野かな
・土に生まれ土へと還る冬菫
・柔らかな日差しの中を冬の蝶
鶫とぶ午後 JUN
無花果の崩るる深紅手のひらに
ひた走る四肢の光や運動会
鶫とぶ午後の陽光愛しみて
宵寒や歩めば高き靴の音
行く秋の小太鼓の音や神楽坂
「夜のカフェテラス」 NAOKO
・今朝もまた駐輪場の近くにて五匹の猫に見つめられたり
・夜の街を風に吹かれて歩み来ぬ「夜のカフェテラス」さながらの街
眼可愛ゆし
・ ふっと吹きしシャボン玉ひとつ飛びゆくを見上げし幼の眼可愛ゆし
・ 落ち着きたいそんな気持ちが湧く時も常に動きて移ろふ生活
・ 甘き物止められているのに薬にて数値下がれば菓子パンを食む
短歌研究9月号 高野公彦選 空っ風
・若き日の夢叶ふとふ溌剌とベルリン・フィルを指揮する佐渡氏
・佐渡裕ドボルザーク八番の指揮了へ額の汗ひかる見ゆ
・佐渡裕髪掻き上げてタクト振るベルリン・フィルにブラボーブラボー
短歌研究9月号高野公彦選 mohyo
・父在りし診察室の窓下にギリシャの花とふアカンサス咲く
・歌の師ゆ母賜はりしアカンサス府中の庭に馴染みて謐か
炎昼の街 JUN
・ 菜園に虹立てながら水遣りす
・ 炎昼の街貌の無きひとの群れ
・ 日盛りに影濃くわが身置くも良し
・ 鑑三の石の教会日の盛り
・ 糊利かせ肌に馴染まぬ浴衣佳き
短歌研究8月号高野公彦選 消費すること monyo
経済は消費すること世のためとパクパク動く口を見てをり
百五まで
五月雨の畑中を行くランドセル
百五まで生きてじいじと裸の子
アカンサス町医者なりし父遙か