母の死を聴きて故郷へ急ぐべし始発電車を待つ時間長し
短歌研究10月号 佐々木幸綱選 からっ風
鬼平や遠山金さん闊歩せし深川界隈梅雨に入りたり
短歌研究10月号 佐々木幸綱選 mohyo
初めての口ほどけよきお茶菓子と薄茶飲みたり山梨にきて
夏の草 JUN
日を掴み向日葵の黄は輝けり
己(おの)が影辿りて刈れり夏の草
甚平や天の炎を肩透かし
眼(まなこ)閉づ秋めく風を頬(ほお)に受け
音色良し仕舞忘れの風鈴の
ピナテール NAOKO
①「忘れ草」たばこの異称と知りてより鬼ユリの顔やわらぎぬわれ
・忘れ草→身につけると物思いをわすれるという (季)夏
・たばこの異称→ 吸えば憂いをわすれるという
②近隣の人は死ねども肉じゃがをわれは食べたり明日を思いて
③どのような人が罪人 特別な人ではないよ沈黙の月
④『つゆじも』の歌集を読めばあはれなりピナテールの名をこころに留む
・ピナテール 仏人。江戸末期文久3年渡来。貿易関係の仕事をしていた父を
追って長崎に来た。時に18歳。恋慕した遊女と結婚。3年ほどで妻は他界する。
彼は大変悲しみ朱塗りの枕を形見に独身を通した。 行年77歳
・『つゆじも』茂吉第三歌集 39歳の作品
長崎の港の岸をあゆみゐるピナテールこそあはれなりしか
⑤台風が千葉を襲いぬ停電の二日目となる冷蔵庫効かぬ
わが老牧師 NAOKO
「ふみちゃん」と母を呼ぶ祖母ふみちゃんに戻れぬ母の一瞬の怒り
肉牛を育てし人らに感謝述べ肉料理出すシェフの映像
ニアミスで済まされるのか東京が全壊するほどの隕石過(よぎ)る
「お月様、お星さまの世界よし」と女性評論家テレビに言えり
無表情、笑顔の二種類それ故に威厳があったわが老牧師
雨の白梅 佐野豊子
ぶきっちょと母に叱られ折鶴の翼のはなより鈴なりわたる
また闇に雨音のして空気冷えもう寝よかとみずからに言う
どうにでもなれとトラック右折して雨の白梅枝ごと落とす
おぼろ月むかしの人の心には菜の花さいて詠み人知らず
顔をよせ桜一輪みてあればかわいいさくらやまとのさくら
夕日に映ゆる JUN
ひと去れば夕日に映ゆる夏みかん
濃紺の光纏(まと)ふや初茄子(なすび)
世間とは付かず離れず昼寝かな
屯田兵(とんでんへい)拓(ひら)きし村や南風曇(はえぐもり)
木道の九十九折(つづらお)れるや水芭蕉(みずばしょう)
短歌研究9月号水原紫苑 mohyo
誰もゐぬ居間にもの書き鉛筆を置く時気づけり木々にふる雨
短歌研究9月号水原紫苑選 からっ風
昏れ方の空茜して水ぬるむ富士の山すそ忍野八海