苺狩り  松岡尚子

花のように次々開く万華鏡くるくる回し心明るむ

人避ける長の子連れて平日に苺狩りせり貸し切りのごと

苺もぐ要領もありひと粒をくるっとひねりわが掌に乗せる

濃きミルクと袋渡され苺狩り初めてを来ぬ五井のハウスに

鳩  ふーしゃん 1996年ごろ

満開のしだれ桜の紅の花右まわりに観左まわりに観る

二日前羽生七冠王挙式せし鳩の森神社鳩の鳴くなり

ゴッホ描けり青の大空黄の畑不安ただよふ曲線の教会

潮来のあやめ    松岡尚子

予想もせぬ展開見する人生の不可解故に養ふるこころ

札幌に文学館建ち特集号が送られ来しをよろこびとする

曇り日の潮来のあやめ花びらの白きを眺め紫を眺む

いち面のあやめの群れをやや離れのほほんと咲く白き
睡蓮

わが歌枕  佐野豊子

思いでを問われていたり愛深き祖母さえ忘れておりし心に

沖縄を母はかたらず存(ながら)えし命をただによろこぶ戦後

琉球はわが歌枕ほろぼされみずからほろぶたとえば心

アメリカが世界に君臨する野心ゆるすのか返せ沖縄の島

人生がすこし修正されたよう頭髪(からじ)をたばね
頂(ちじ)にゆいあげ

水仙  松岡尚子

夢ひとつ受けたる心地水仙の球根の袋手渡されつつ

ベッド横に腰掛けふいに寂しかりいとも酷なり老孤といふは

本当に生まれて良かったと思ふかと吾子は問ひたり乙女さびたり

勝敗がすべての如き現実の人間といふを時に憎めり

さくら  mohyo

老母と今年もさくら見上げつつさくら並木を去りがたくをり

大声でひとりごといひ女行く背にさくらばな幾ひらつけて

暗雲に蔽われてゐる満開のさくら眼に顕つ白白として

夜桜にこころわななくICUの酸素マスクの母を思ひて