玉子酒  JUN

寄せ鍋や娘夫婦の暮らし振り

山茶花の白鮮やかに犇(ひしめ)けり

閉ざされて雪山静か寒湯治

後悔も弁解もせず玉子酒

含羞も少し手拍子酉の市

追羽根の空に止(とど)まりやがて落つ

羽子板の武者絵の貌(かほ)に羽子の傷

{追録}

(馬場治子さんの「詩人 村野四郎」上梓を祝ひて)
天翔る四郎の鹿や返り花

(郷土の森博物館元館長 横尾友一氏を悼みて)
冬の雁翔(た)ちて郷土の森残る

父の30年祭  mohyo

亡き父の30年祭父のひ孫さくらちゃんもいて豊かなる午(ひる)

昨日より下の歯2本生えそうな歯茎を見せてさくらちゃん笑む

姉弟(あねおとうと)らにクッキー袋を渡しつつ尚子は尚子の心遣いする

いろはにほへと  JUN

霜月の星なほ残り夜は明けぬ

結局はひとりの夕べ赤のまま

日光のいろはにほへと山の秋

落日の竹馬長き影が往く

由良川の辺が生地荻の群れ

衣被ぎ衣残さぬやうに剥き

アニバーサリー祝ひ踊るや街は秋

歌にせよ  mohyo

エッセーで書けぬところを歌にせよ鍋洗いつつ拭きつつ思ふ

ミツビシのボールペンの歌三人の歌人の解説また読んでみる

定型で言えぬ思ひを漢字・かな音リズミカルにととのえてみん

熊襲  mohyo

庭の柿喰らふ熊見て柿買ふにテレビは映す熊撃たれしと

ヘリコプターで熊にエサ撒け 生態系言い出す正しさ少し憎みて

ドングリになる日を待ちし熊飢ゑり芽のうちに猿・リスに食べられ

クマ撃つは襲われたから捕らえしを山に返しし目印をもつ

赤き闇  JUN

一隅に赤き闇あり彼岸花

終電の去つて小振りの月残る

松茸を買ふや季節に背を押され

十月の五臓六腑に気は満てり

鰯雲心の襞のあるやうに

新涼や老いの手習ひ周に秘


夕ざれの日を受け止めて柿簾

ムエタイ  佐野豊子

ムエタイの脚のながさは差身なしの魔裟斗(まさと)の腹を蹴りつき勝利す

沈黙のハイビスカスは炎天下たちまち勢うバケツの水に

廚ごと苦手なりしを主婦という隠れ蓑にてわたるハネ橋

伝説  mohyo

洋式のトイレ希望す足長の少女はスタイル、吾は膝痛で

伝説を妹言ひぬ白髪の母に黒髪のあまた生えきて

その夫を「ツレ」「ダンナ」とふ車内にて「連れ合ひ」といふひびき吾に沁む