香り届きぬ  松岡尚子

抜け毛多き髪の悩みに大丈夫と励ましくるる美容師のひと

道路下の梅に気付けり夜の闇に白く浮き立ち香り届きぬ

独り身に馴れし此の頃いつの間にわがままになり短気にもなる

たっぷりの大根おろしにポン酢かけ焼き肉食べれば不機嫌なほる

綾子

馬場あき子選  短歌研究5月号

故郷へ帰るすべなし吾を背負い祖母が歌ひし琉球古謡

祖母の背で不安といふを知り染めぬ引揚者に吹く基隆の風

泣くことは安らぎでした引揚者家族の長女三歳のわたし

ああー泣けば泣いてもよいと祖母も泣く引き揚げて三重の山道を行く

三線のリズムに一人踊りでて次々踊るも馴染めざるまま

綾子

朧の空

登り坂一足ごとに春の海十字架の朧の空に母見舞ふ

花衣ふたりの違ふ老い支度

仰木香織さんの歌 歌誌コスモス06−4月号

今月も仰木香織さんの歌があった。やはり悲しみのお歌であった。心からご冥福を祈ります。
今日は王JAPANが世界一になり日本中が沸いた日だった。

粉雪散る野外球場(グリーンスタジアム)に列なして仰木彬監督を偲びくれます

白いカーネーション手に手に寒きグランドに駆けつけくれつファンらたふた

大リーガー野茂が田口が、やんちゃくれの清原(キヨ)が涙ぐみ献花の順待つ

子をもたず惜しむなく父性注ぎしかよき選手らかく育ちかく慕へるは

マウンドの笑顔の遺影魂魄ととどまりまさむ。また会いに来む

綾子

 

朝光及ぶ  松岡尚子

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千五百八十円也一缶の石油代金にひた驚きぬ

小さきこと発端として風船が膨らむやうに拗れし関係

失望に負けることなし山林の枝々の雪に朝光及ぶ

綾子