母の人形  mohyo

昔から母の見る夢問題をわれ等にしらしむ習いぞ祈れ
沖縄をふりむきもせぬ母よ母西洋人形足枕にす
薄汚れぺちゃんこ人形母に似てレースの帽子ハイカラ少女

綾子

夏野  JUN

夏の野に潮風渡り讃岐富士

ひとのため祈ることあり遠花火

丘の上ホテルは今も巴里祭

沖縄舞踊  松岡尚子

生死分かつ別れありしとぞ船出前を女らの舞ふ沖縄舞踊

満月の光を浴びて不動なるをみなかすかに面上げたり

鴨狩りの男踊りは軽快にて鴨と仲良くステージを去る

霞ヶ関の茶房に居れば白髪の紳士が二人短歌(うた)の話する

綾子

短歌研究(八月号高野公彦選)   mohyo

母の裡を切なく聞く夜白々とドクダミ草の花ゆれやまぬ

足の爪切りやる吾に女男のこと艶めき語る母を憎めり

小さくてきれいな爪持つ母の足八十九歳をマッサージする

「ご家族と話すときには母になる」青年福祉士吾に告げをり

綾子

登り窯  JUN

伝へたき言葉は胸に梅雨に入る

梅雨空へ煙笠間の登り窯

紫陽花の花を急かせて小糠雨

実をあまた付けて寂しも枇杷の照る

歌のメモ取る  松岡尚子

久々に会ひし姉なり両膝の痛むと言ひつつ歌のメモ取る

池袋の上階の店が気に入りて姉と食せりあんみつぜんざい

主人公ネルロと犬のパトラッシュ筋に通った生き方をする

綾子

惜春

ひとを待つ暮れ行く春の聖(ひじり)橋

春惜しむニコライ堂の袂(たもと)より

初蝶

初蝶の解き放たれし空があり

春を喰ふアスパラガスは手掴みで

春雷や見知らぬひとと言かはす

残雪の磐梯連山曇りなし

無口なる息子と分かつ柏餅