雛(ひいな)  JUN

北窓を開き童の声近し
島陰にやがて隠れし春の船
ネクタイを選れば銀座は春の雨
年古りて髪抜け給ふ雛かな
野の川に水の戻りて山笑ふ

歌留多  JUN

初風呂や一年振りの湯屋暖簾
小庭にも雀訪ひ来て二日かな
愚図る子をあやして暮るる三日かな
朗々と歌留多読む声父は亡し
唐突に良句授かる湯冷めかな

雨けぶる  mohyo

遠き日の学び思わる水のたび海 雲 雨 の雨けぶる見ゆ
ひと日終へくるまる蒲団に安堵せり強き雨音かぜも混じりて
眠ります母よやすらかなる時を黄の花ゆらら雨降りやまぬ

口惜しさよ  松岡尚子

 

するべきこと優先させる口惜しさよガス代の汚れ時間かけて拭く
栄養を優先させる口惜しさよケーキを避けて人参を採る
苦手なる常識なるもの聞かされて確かにさうだと一時(ひととき)思ふ
写真は今沖縄で咲いているにんにくかづら
綾子

合同歌集「清瀬短歌サークル」

「はじめに」のことばに印象に残る言葉があった。
「先人の秀歌を朗読することも若さをたもつ近道と考えます。
短歌はひとりひそかにかきとめるのもいいですが、他の人に
読んでもらい歌の心が読者に届いた時にいっそう輝きをはなつ
詩形でもあります。」

・もうれつな暑さの朝の道路わきみみずはすでにシミと なりおり

・満員の電車の中に立ち寝する特技も近く終はらむとす も

・かぎ穴の向こうにニャオと声のする帰宅待つリリー今 あけるから

・着替えする吾を網戸の蝉覗く人影のない五階の小部屋

・いつからか夫婦で交わす「ありがとう」労わり生きる 七十路われら

・空高く風とひとつに舞うトンビ悩みの小さくなるまで 眺む

・片目にも視力あるうち読みおかむ満州移民の「信濃昭 和史」

・置き去りにされし男の子の泣く中を聞こえぬふりに逃 避行する

・少年は日本人みてさくらさくらベルギーの街にアコー デオン弾く

・若竹の天空に舞いさわさわとしなう強さを 吾も持ち たし

・十字架が紅茶いろして暮れゆけば祈る人びとなごみゆ きけり

・つね通う八百屋の屋根にふれそふな柿の木芽吹く黒穀 残し

読後感がさわやかで老人カが伺われる。老人が作る短歌の姿勢が示されている。

綾子

滅びゆく  JUN

滅びゆく光のなかを秋の川
秋の日や空に柳葉魚の簾干し
紅葉して降る雨明し倉戸山
秋澄みて若き心地の歩を早む

秋思  JUN

秋思ふと睫毛に遊ぶ日の光
吾の居て将(はた)居らずとも野辺の秋
鬼灯のひと恋ふ如く色づけり
鰯雲歌詠み歌を忘れけり