20歳のころの歌が出てきた mohyo

ユニフォームの赤き色もよしポーランドの選手団今我前を行く
理由なき憂いもあるか水たまりの雲見つめつつ友待つひととき
かけ声の力づよきにひきづられ夜遅くまでシュートしをりき
疎ましき日曜の午後一人居て五月雨の音あらためて聞く
盛菓子を囲みてはずむ初恋をそれでそれでと問ひつめあひて
祖母の命あと数時間にせまりたりオウショクキ今開かんとするに
カーブして何処まで行く川ならん黄昏の野に黒く光れリ
ふりむけばただ蔵王のみくっきりと夕日を受けて輝き聳ゆ
淡々と生殖器官の講義終へ試験に出すと云へり教授は
私鉄スト止まぬ夕べを遊びいて乗用車ダンプカーと乗り継ぎ
帰る
虫の好かぬ友と別れて灯のともるペーヴメントを大股に歩む
亀裂する雲間より見ゆ橙色のメッキの月がマヌカン照らす
みどりなす春の陽射しと思ひつつ仰向けに寝れば強き土の香
白き葉を見せて立ち並ぶ柳柳ふきあぐるごと風にゆらぎぬ
黒き幹に萌へし若竹色の芽の公園の空をおほひて豊けし

ノロウィルス  松岡尚子

感染症の恐ろしさ思ふ施設内の高齢者あひ次ぎ嘔吐に苦しむ
居室トイレ霧吹き使ひ消毒す次亜鉛素酸ナトリュウム身にも掛けつつ
マスクして一日居れば時折に息苦しくてひととき外す
家庭用の浴槽の中に感染者の衣服を入れて熱湯消毒す
いつの間にあの人もまた次々に高齢者を襲ふノロウィルスは

心象の風景  空っ風

いくつかの季節はすぎて白っぽく腐れゆきたり裡なる樹木

ひっそりと空気の中に眠りゐる吾が心象の貧しき風景

欲りてゐし少年期への憧憬はやさしく芽吹く草の影にも

海を恋ひ少年期を恋ひひとを恋ふ北国の朝の春あさき空

白みゆく夜の眠りに写りたり雪原(ゆきばら)を駈けし汝が後姿(うしろで)

幻覚の世界にあそびし春の朝V・ゴッホと渡りき「アルルの跳ね橋」

野分だつ浅間の原に生きてゐし吾が瞑想録はまだ<青>もてり

残雪の谷川岳にむかひて叫ぶ”キエルケゴールを超へてゆくべし