秩父連山  佐野豊子

春萌える秩父連山ドライブの助手席にいてさみどりの腕

長瀞へおいでおいでと廃船にあふれるほどのパンジーが咲く

山いちめん芝桜咲くひつじ山日のくれどきに羊鳴くなり

春星は密かに落ちて花になる秩父連山ついに暮れたり

闇のやま赤い尾灯がいっせいに輝き並ぶ秩父街道

kokuga

 

 

「國画会」の絵画、写真、彫刻に
友と二人で勝手な批評す
(満智子)

(原作)
「國画会」絵画写真と彫刻に友と二人で勝手な批評

(アドバイス)
歌を読みやすく整理しましょう。

コクガカイ「の」と6音でかまいません。
絵画、写真、彫刻
「、」で並列にします。
結句は「す」をいれましょう。

ひゃら
あの梅原竜三郎らの「國画会」ですか?

作者
そうです。恐れ気もなくいろいろ言って。

ひゃら
楽しい時間だったようですね。周囲のひとにうるさいと言われませんでしたか。少し心配です。

ひゃら
歌は面白いです。「國画会」だから勝手な批評に意味があるのでしょう。

(アドバイザー略歴)
結社「かりん」所属。
歌集『炎の藻群』『ていだ 太陽』
清瀬短歌サークル講師

豊子

 

風邪  佐野豊子

熱いでて枕の下に手をいれるひんやりひとり春夜を目ざめ

病臥して萎えるこころは混沌と思わぬ人をなつかしみおり

熱さがり夢さめたようしんみりと食卓により白湯いれて飲む

病みあがりあみだ帽子をかぶる部屋こんな事にも安らぐなんて

われが病み姉さん少し痩せたらし母の介護の奮戦メール

恩納岳  佐野豊子

もう未来みえない日本そのはなのもっと見えない美(ちゅらさ)さ沖縄

空暗く鳥きしきしと羽搏つなりヤハウェわが神われら生きたし

なんとなく隠しもちたる裂布あり祖母の紅型木綿なれども

その山は歌の香具山その山は琉歌の神すむ恩納岳 撃つな

爺の自転車

 

気むづかしい顔した爺の自転車のうしろに
ちんまり男児(おのこ)がすわる
(いちゑ)

原作
気むづかしき顔した爺の自転車のうしろにちんまり男児(おのこ)がすわる

(アドバイス)
全体に現代かなづかいなので「気むづかしき」は「気むづかしい」でもいいのでは。

情景をきちんととらえ、表現されています。

ひゃら
街で見かけた場面でしょうか。

作者
そうなんです。おかしくて笑っちゃいました。

この爺さん、すごい顔してペダルを漕いでいて、そのうしろに男のこが、それこそ、ちんまりすわっているのよね。

ひゃら
大人の気分と関係なく、ちんまり坐っている男の子が可愛いですね。すこし気をつかってるのかな。

作者
爺さんと男の子を見たとたん、この歌がすっとできました。

2004/ 4/ 13  豊子 : 15:31

 

グーチョキパー

 

 

五階から見下ろす桜は咲き初めて
今日か明日かグーチョキパー  (みよ子)

原作
五階から見下ろす桜の枝えだは今日か明日かグーチョキパー

(アドバイス)
グーチョキパーがこの歌のおもしろさですが、やや唐突な感じがします。

作者
グーチョキパーの意味は、わかりますか。

ひゃら
歌全体から想像すると、蕾のふくらみを
いっている?

作者
そうです。グーはまだ固い蕾。パーは咲いた状態。

ひゃら
グーチョキパーを補佐することばが必要ですね。
たとえば「咲き初めて」「咲きはじめ」など。

作者
枝えだ をやめて「咲き初めて」にします。

ひゃら
そうですね。唐突な感じが、少し薄まりましたね。
元気のいい歌です。

豊子

 

わが歌枕  佐野豊子

思いでを問われていたり愛深き祖母さえ忘れておりし心に

沖縄を母はかたらず存(ながら)えし命をただによろこぶ戦後

琉球はわが歌枕ほろぼされみずからほろぶたとえば心

アメリカが世界に君臨する野心ゆるすのか返せ沖縄の島

人生がすこし修正されたよう頭髪(からじ)をたばね
頂(ちじ)にゆいあげ

猫とふたり

客ぶとん仕舞いて猫にかたりかく
「お盆がすぎてまた君と二人」
(オリーブ)

原作
人に言うごとくに猫と語り合う「お盆が過ぎてまた君と二人」

(アドバイス)
人に言うごとくに はいらないのでは。下句で猫に語りかけていますから。

作者
猫に語りかけている自分に可笑しくなりました。

作者
息子夫婦が上京してにぎやかでしたが、帰ってしまいました。その時のうたです。

ひゃら
ほっとした気持ちと淋しさが入り混じった歌でしょうか。

作者
客布団を仕舞ったり用事は、ありますね。

ひゃら
客ぶとん仕舞いて猫にかたりかく「お盆がすぎてまた君と二人」

作者
それで良いと思います。

 

牛乳瓶の感触   佐野豊子

飲み終わりし牛乳壜の感触をくちびるにあてふわーんとあくびす

石の上のトカゲのような緊張感とけずとけない母看取る日々

桃咲けど根雪のさむさ温かさ疲れはかすか人遠ざける

日だまりはポンカンポポン布団ほすヘルパーさんの声こだまして

遭難者ヘリにて運ぶ雪山の映像見つつふと涙でる