写真数枚  オリーブ

姑の行く老人ホームはワンルーム
持ちゆくなかに写真数枚
(オリーブ)

原作
姑の行く老人ホームはワンルーム持ち行く物に数枚の写真

ひゃら
「持ち行く物に」では、写真だけもっていくように強調されますので、「持ち行くなかに」ではどうでしょう。

ひゃら
「老人ホームは」と「数枚の写真」は8音、破調になっています。

ひゃら
「老人ホーム」は名詞です。長い名前もありますので、破調になるのは仕方ないですね。「高齢者ホーム」ともいいますね。

ひゃら
「数枚の写真」は「写真数枚」と語順をかえ定型の7音をまもることで、歌が締まります。
散文と歌のちがいです。定型にしましょう。

作者
破調でもいい場合と、
語順をかえて、定型をまもることを学びました。

豊子

手毬  佐野豊子

哀しみをけとばしている入院の母のかたえに向日葵として

転院をすすめる医師と聞く家族てんてん手毬の母ホームレス

聖書には発見多し「初めに言があった。言は神とともにあった。」

ムエタイ  佐野豊子

ムエタイの脚のながさは差身なしの魔裟斗(まさと)の腹を蹴りつき勝利す

沈黙のハイビスカスは炎天下たちまち勢うバケツの水に

廚ごと苦手なりしを主婦という隠れ蓑にてわたるハネ橋

梓川  井手麻千子

樹々の間を赤ゲラ行きつ戻りつす

息のみ見守る小淵沢の宿
(井手麻千子)

原作

赤ゲラが行きつ戻りつ樹々の間を息のみ見守る小淵沢の宿

ひゃら
珍しい鳥を見たときの心躍りがつたわります。

表現がぶつぶつ切れて言葉の省略が気になりました。

作者
宿の窓から赤ゲラを見つけたときは感激でした。友人と息をつめてみていました。

ひゃら
見たもの、感激したものを、率直に歌いだすことは、よいことです。まず歌ってみる。そのあと、言葉のつながりや、律、意味がつたわるか、推敲が大切です。

作者
いろいろ考えました。

ひゃら
語順や意味からゆくと「樹々の間を 赤ゲラ、、、、」と歌いはじめると安定してきます。

ひゃら
歌は散文ではありませんが、この歌の場合は、赤ゲラが行きつ戻りつ(スル)という動詞が省かれています。

語順をかえることで「戻りつす」と動詞をいれることができます。

作者
語順をかえることを学びました。

浮雲  佐野豊子

誰からも遠ざかりつつ火のついた浮雲のよう足暖める

断罪をくだして樫をかなします魔物めきたりわたくしの声

あけぼのの目覚めの鴉かわかわと幼いままに濁声に鳴く

意味もなくなつかしくなる向日葵の茎の太さに真夏の昭和

海蛇  佐野豊子

みずからを海蛇という宮古人海人の娘仙台に住む

火事のよう西雲は燃え声はなし華ある舞いを魂の舞を

脇役の茶の花でいいイヤ違う二つ心に青月あおぐ

誰かいう少数族のアボリジニー熱湯のごと人寄せ付けず

牛蛙

対岸の牛舎に届け似た声で
梅雨だつゆだと牛蛙鳴く
(小見山みよこ)

原作
対岸の牛舎に届け似た声で梅雨に入ったと牛蛙鳴く

ひゃら
梅雨にハイッタと読まれましたね。

作者
四句目が気になっていろいろ考えたのですが。

ひゃら
歌を愉しむチャンスです。リズムよく鳴かせたいですね。

作者
もう梅雨だなと私が思ったのです。

ひゃら
「梅雨だつゆだ」はいかがですか。

作者
それがいいです。それにします。

魔のような  佐野豊子

魔のようなリハビリ病棟母の足二回脱臼そして大けが

全身が他人になるほど輸血されICUに母生きている

ざらにある転落事故とう大天(おおあま)の神々ならび詫びてはいるが

「うう寒い」背後の窓に日はのぼり咲くよ沖縄明けもどろの花

やんばる  佐野豊子

滞るお礼の手紙まだ書けず花の春はや鬱に苦しむ

海水が盛り上がりくる恐怖感ちいさな島は八方が海

惜しげなくやんばるの樹々切り倒しつくられし道路走るも
われら

沖縄につつじ山あり土匂う本土の土を盛りて咲かせる

花びら…

 

 

花びらの路上ダンスは愛らしく
ひとひらひとひら風に立ちおり
(ふみえ)

原作
花びらの路上ダンスは愛らしく風に吹かれつも容姿保ちて

(アドバイス)
容姿保ちて う〜ん気持ちはわかりますが。

花びらのダンスは素敵な場面ですね。そこをもうすこし具体的に歌いましょう。

作者
アスファルトの道路なので、花びらの1枚1枚が風の吹くたびにワーって立つので、夢のようでした。

ひゃら
バスの窓から見たのですね。花びらが立つは、飛び立つのですか。

作者
いいえ、花びらが立ち上がりました。

ひゃら
美しいですね。そこを歌いたいですね。

作者
ひとひらひとひら風に立ちおり

(アドバイザー略歴)
結社「かりん」所属
歌集『炎の藻群』『ていだ太陽』
清瀬短歌サークル講師

豊子