ゆったりと硝子の向かうを行き来して虎は去りゆく役者の様に
みづうみのやうな眼をして首長し二頭の麒麟がさりげなく過ぐ
群がりてざわざわとする人間を腰を降ろして眺むるゴリラ
女たちの子守歌 みなみ恋し ふるさと
ゆったりと硝子の向かうを行き来して虎は去りゆく役者の様に
みづうみのやうな眼をして首長し二頭の麒麟がさりげなく過ぐ
群がりてざわざわとする人間を腰を降ろして眺むるゴリラ
ドビュッシー私生活のことはさておきて魅力的なる「牧神の午後・・・・」
YES NOの矢印を追ひ行きつきし我に合ふ人マーラーとなる
ベッドの中でエセエセチャッコチエコさん何語かわからぬ世にゐます母
大雨の音やみし朝草も木も風呂あがりのやふ母ゐる清瀬の
ぶれやすき我と思へり駅までの細道に射す黄の夕ひかり
夜の風雨も混じりて吹き来るに傘を差しつつかなしみ抑ふ
枝垂れ梅今し咲きたりほのぼのと朝光及ぶと告げむ人なし
ヘアピース小さきを加へブラッシングすればわが髪豊かとなりぬ
ユニフォームの赤き色もよしポーランドの選手団今我前を行く
理由なき憂いもあるか水たまりの雲見つめつつ友待つひととき
かけ声の力づよきにひきづられ夜遅くまでシュートしをりき
疎ましき日曜の午後一人居て五月雨の音あらためて聞く
盛菓子を囲みてはずむ初恋をそれでそれでと問ひつめあひて
祖母の命あと数時間にせまりたりオウショクキ今開かんとするに
カーブして何処まで行く川ならん黄昏の野に黒く光れリ
ふりむけばただ蔵王のみくっきりと夕日を受けて輝き聳ゆ
淡々と生殖器官の講義終へ試験に出すと云へり教授は
私鉄スト止まぬ夕べを遊びいて乗用車ダンプカーと乗り継ぎ
帰る
虫の好かぬ友と別れて灯のともるペーヴメントを大股に歩む
亀裂する雲間より見ゆ橙色のメッキの月がマヌカン照らす
みどりなす春の陽射しと思ひつつ仰向けに寝れば強き土の香
白き葉を見せて立ち並ぶ柳柳ふきあぐるごと風にゆらぎぬ
黒き幹に萌へし若竹色の芽の公園の空をおほひて豊けし
戦闘帽かぶりて銃を構へゐしかの満洲の兵のその後は
春の鳥いくさを知らずのびやかに弘法寺の森に鳴き遊びをり
デパートの蛍光灯に照らさるる仏教美術展のみほとけの顔
昭和37年都民文藝(6)