そちこちのふとん叩く音しづもりて研ぎ澄まし読む昭和史の闇
戦争で儲けし人ら闇にをり例へば満州立国のころ
女たちの子守歌 みなみ恋し ふるさと
そちこちのふとん叩く音しづもりて研ぎ澄まし読む昭和史の闇
戦争で儲けし人ら闇にをり例へば満州立国のころ
介護職に就きて働く青年の俳優への道険しくもあらん
若き腕の力強しと誉むるわれにしらたまの歯を見せて笑みたり
寂聴氏のことを語りて若やぎし熊井頼子氏逝き給ひたり
記録簿に『帰宅願望あり』と書くグループホームに過ごすその人
時折にふいに泣く人記録簿に『感情失禁』とは書けずをるなり
トマト入りのオムレツ作る入居者の真剣な目つき主婦に戻りぬ
真夜中のいびきのあひ間に聞こえくる世界の天気に旅の日思ふ
一瞬をバイクが過ぎぬ夜の更けて歌作らんと静かに居るを
残酷に過ぎゆく時間ベランダのジャコバサボテン花咲かせたり
「うるさいなあ』 と思ってしまふ注意され説教されて叱らるるとき
後ろだて無き浮舟の幸せを老後の不安と重ね読みゆく
浮舟に つきこし人らの老後など語られず帰るもどかしきなり
暗唱の番号いとも易き故変へよと画面に注意されたり
甘みなき林檎を切りてレモン汁グラニュー糖で煮込みぬ今朝は
向ひ来るヘッドライトに浮き立て淡くきらめく穂芒の群
大雨が豪雨となりてアスファルトを打ち叩くなりレストランの前
雨あとの自転車ハンドルに坐してゐる小さき蛙を左手に受く
机の前の壁に貼りゐし折り紙の蝉三つ外す秋風吹きて
禅林寺に常に太宰が居るような・・・。墓とは不思議な力を持つなり
自らが持てるすべてのものを差し出し共に逝きたるをみなを思ふ
誘われて死なんと答ふる男ありや瞬時よぎりぬ男女の違ひ
寒卵 癌といふ字は 覚えざる