短歌研究3月号永田和宏選(準特選)          mohyo

母逝きてまだ三日もう三日なり一番電車の遠のく音する

ある時は「帰らないで」と涙する母をいさめて芝居見てをり

妹は母との約束果たさむとまだ温き亡母(はは)のほほ皺伸ばす

表情の出てきたといふ母なれど泣くことなりき頭なでつつ

病室の母に会うため通ひしが「ただいま」と言へりいつよりか吾の

妻を語らず       NAOKO

先月の末にその妻亡くしたるYさん黙して妻を語らず

盲目のYさん椅子より立ち上がり動かんとするにスタッフ走る

男女問わずスタッフとして対すれど時々苦手な人に疲れぬ

ふーしゃんは天に召されました。『昭和万葉集』 講談社より      mohyo

PROFILE

大正5年 台湾高雄市で誕生

大正7年 幼児洗礼 伊藤春吉牧師 高雄教会

大正12年 北原白秋『多磨』に入会  斉藤 勇 『台湾』に入会

昭和13年 信仰告白(幼児洗礼ではなく自分か受洗) 上 与二郎 牧師 台北幸町教会

昭和15年 軍医の父と結婚

昭和20年8月 台湾引き揚げ 基隆より

昭和21年 塩見靜歩『丹土』 入会  北原白秋『多磨』再入会

昭和26年 東京都婦中町に転居

昭和28年 宮 柊二 『コスモス』 創刊に参加

昭和49年 夫逝去

昭和56年 歌集『ポポの木』 上梓

平成21年12月2日 死去 府中教会員 享年93

信愛病院に5年間入院し信愛教会の本宮牧師に毎日お祈りしていただいた。葬儀は信愛教会に

お願いした。

空暗く地球の青くみゆる時もガガーリンの頭にみ手のありしならむ

茄子の馬あれば偲びぬ引揚げのわれは飢えゐて拾いたりしか

田舎医師となりたる夫が世を忍び長く着たりし軍服ぞこれは

夫の死に伴ひ入りしそこばくの銭を握りぬ悲しみは湧く

仏頂面などはするなと夏落葉われを目掛けて黄に翻る