検番の舞台にゆれる柳結び帯のしめ方昨日習ひき
否と応へぬ NAOKO
大木の陰になりたる墓を避け式までの時を陽を浴ぶ人ら
冬晴れの青空のもと姉弟が墓前にて歌ふ納骨せんと
「実の母を亡くして心がきつくないか」と娘が問うに否と応えぬ
大欅 JUN
幾山河隔てて我と初富士と
竹林の竹が粉を吹く淑気かな
冬枯れて気骨残れる大欅
光陰が貌を縁取る初鏡
「帽子似合うよ」 NAOKO
大腿部骨折の時に取り付けし金具がごろんと遺骨に混じる
花々に埋もれて眠る母の棺に声をかけたり「帽子似合うよ」と
讃美歌の曲が流れて久々に礼拝堂に入りたり我は
短歌研究3月号永田和宏選(準特選) mohyo
母逝きてまだ三日もう三日なり一番電車の遠のく音する
ある時は「帰らないで」と涙する母をいさめて芝居見てをり
妹は母との約束果たさむとまだ温き亡母(はは)のほほ皺伸ばす
表情の出てきたといふ母なれど泣くことなりき頭なでつつ
病室の母に会うため通ひしが「ただいま」と言へりいつよりか吾の
言葉やさしく mohyo
経営は見直し政策待てぬとぞ言葉やさしく病棟は閉鎖
貼られたるトイレの暦にわが来る日書かれてありぬペンも置かれて
追悼五句 JUN
窓に透く母無き家の冬日かな
ポポ落ち葉母と過ごせし小庭にも
日に映えて土へと還る枯野かな
若き日の母の遺影やおでん酒
母の死にわすれてゐたり冬の星
妻を語らず NAOKO
先月の末にその妻亡くしたるYさん黙して妻を語らず
盲目のYさん椅子より立ち上がり動かんとするにスタッフ走る
男女問わずスタッフとして対すれど時々苦手な人に疲れぬ
ぽぽ落ち葉 JUN
ぽぽ落ち葉母と過ごせし小庭へも
窓に透く母無き家の冬日かな
日に映えて土へと還る枯野かな
ふーしゃんは天に召されました。『昭和万葉集』 講談社より mohyo
PROFILE
大正5年 台湾高雄市で誕生
大正7年 幼児洗礼 伊藤春吉牧師 高雄教会
大正12年 北原白秋『多磨』に入会 斉藤 勇 『台湾』に入会
昭和13年 信仰告白(幼児洗礼ではなく自分か受洗) 上 与二郎 牧師 台北幸町教会
昭和15年 軍医の父と結婚
昭和20年8月 台湾引き揚げ 基隆より
昭和21年 塩見靜歩『丹土』 入会 北原白秋『多磨』再入会
昭和26年 東京都婦中町に転居
昭和28年 宮 柊二 『コスモス』 創刊に参加
昭和49年 夫逝去
昭和56年 歌集『ポポの木』 上梓
平成21年12月2日 死去 府中教会員 享年93
信愛病院に5年間入院し信愛教会の本宮牧師に毎日お祈りしていただいた。葬儀は信愛教会に
お願いした。
・空暗く地球の青くみゆる時もガガーリンの頭にみ手のありしならむ
・茄子の馬あれば偲びぬ引揚げのわれは飢えゐて拾いたりしか
・田舎医師となりたる夫が世を忍び長く着たりし軍服ぞこれは
・夫の死に伴ひ入りしそこばくの銭を握りぬ悲しみは湧く
・仏頂面などはするなと夏落葉われを目掛けて黄に翻る