夏終はる      JUN

花呉座を敷けば去年の吾と会ふ
離れいて日傘の奥の頸白し
見送るや読経の如き蝉時雨
グランドにボールが一つ夏終はる
生垣を四角に切れば天高し

永田和宏選9月号   mohyo

地植えして数年咲かざりし紫陽花の今年は五つ桃色に咲く
老いてまた忘れたはずの引き揚げの恐怖ふたたび電車に揺らる
何も無い日を楽しまな菓子喰らひ刑事ドラマを次々に観る

夏空に向く  NAOKO

二葉づつ蔓は伸びゆきマンデビラのピンクの花が夏空に向く
焼き鳥の煙流れて模擬店のビール売れゆく盆の祭りに

短歌研究5.6.7.8月号

5月号
春の雲ふわりと浮かびわが影を踏みつつ帰る幼き日のごと(米川千嘉子選)
6月号
七十四歳「ブルー・シャトウ」の歌声に腿上げ手振れば青春のわれ(米川選)
7月号
指先の力弱まり丁寧に切り口見つけ菓子袋開く(永田和宏選)
老木の樹皮押し破り咲く桜とどまり見つむ一人遅れて(永田和宏選)

秋日和      からっ風

秋日和二等空佐の教え子はけふ宮中に勲章を受く
ドトールのコーヒー啜り妻を待つ夕餉の惣菜荷物もつため
印象派ゆずりのタッチと明るき色彩(いろ)はゴッホの自画像細長き顔
晴嵐わたる比叡山(ひえい)の十五キロはるか眼下に近江の海(み)見ゆ

花花花    JUN

サハラよりライン届くや桜餅
櫓を漕ぐや水面に迫る花花花
春愁や城石垣の野面積み
花冷えや黙々と行く旅の僧
鳥帰るかリヨンの音に送られて