黒髪と真紅の薔薇を思わせてあかきソファが軽トラで去る
最後まで凛としていた上階の酸素ボンベを引く女逝く
紅白のどちらが先かと友は聞く梅の蕾よ風渡りゆく
女たちの子守歌 みなみ恋し ふるさと
黒髪と真紅の薔薇を思わせてあかきソファが軽トラで去る
最後まで凛としていた上階の酸素ボンベを引く女逝く
紅白のどちらが先かと友は聞く梅の蕾よ風渡りゆく
浅草の地に根ざししかニューオリンズ・ジャズコンサートに今年も集ふ
聴衆を巻き込み奏す曲目はサッチモ歌ひし『聖者の行進』
cdを毎晩聞きつつ熟睡し今朝も夫とラジオ体操
「父母の寂しさの上にありし幸」今にし思うと姉は告げたり
不協和音聞かさるるごと星空に「広告」を出す人工衛星
「わざわい」の漢字一文字平成の御代は終わりて新春来たる
戻りたい人生の場所はどこなのか小さな花束置きたいけれど
またひとり舞踊仲間はふるさとへもどる晩年島唄うたう
昨晩の宴のあとのおすそわけ不死鳥の咲く花束いただく
ミスばかり緑のみーで枝を打つ「柳」踊るに歳がなんなの
友どちへイナモミ飛ばし遊んだ日
柿干すや日差しあくまで柔らかき
人の世の吐息の如し鱗雲
宴会の書状冬めくポストへと
仔犬連れ歩く小径も冬めきぬ
秋ふかむ上野の森の美術館「フエルメール展」に人は集ひ来
おだやかな光に包み日常を詩的に描くヨハネス・フエルメール
やはらかき光の部屋に「牛乳を注ぐ女」と題す油彩画
水張田の光まぶしく目を閉じてまた目を開けて車窓に揺らる
家族らと共に歩みて墓参する段差の所は支へられつつ
樹木希林死のニュース見つむ台湾で同年同月生まれし吾なり
見張田の光まぶしく目を閉じてまた目を開けて車窓に揺らる
家族らと共に歩みて墓参する段差の所は支へられつつ
床の間に積みし書籍を処分して和室の趣戻せとふ妻
冬の日の障子の白は眩しかり机の向きを変へて書を読む