礼拝の席に祈りを捧げいる黒づくめの女(ひと)誰かと思う
山小屋のベランダに立てば八ケ岳遠目に見えて病む人(ひと)思う
血縁の強さにややも嫉妬する彼女が父を慕う姿に
影のごと主人公に添い読みゆけば内向きなれど芯強き人
風立ちて枯葉幾ひら重なれり季節思わせ小説終わる
女たちの子守歌 みなみ恋し ふるさと
礼拝の席に祈りを捧げいる黒づくめの女(ひと)誰かと思う
山小屋のベランダに立てば八ケ岳遠目に見えて病む人(ひと)思う
血縁の強さにややも嫉妬する彼女が父を慕う姿に
影のごと主人公に添い読みゆけば内向きなれど芯強き人
風立ちて枯葉幾ひら重なれり季節思わせ小説終わる
家族らと共に歩みて墓参する段差のところは支えられつつ
洞窟で見つからぬやう母親が子の首しめし沖縄決戦
殺されし子らとわれとは同年代沖縄思ひて夏日浴びをり
戦後期の闇市の面影(かげ)残す商店街(まち)ハモニカ横丁賑はひてをり
温き茶を飲みつつ思ふ背を伸ばし今は稽古ぞ心しづめて
大き円たどる思ひで両腕をゆったり下げて動かし始む
押されても動かぬ腰を感じ取り太極拳の楽しさに生く
母の死を聴きて故郷へ急ぐべし始発電車を待つ時間長し
鬼平や遠山金さん闊歩せし深川界隈梅雨に入りたり
初めての口ほどけよきお茶菓子と薄茶飲みたり山梨にきて
日を掴み向日葵の黄は輝けり
己(おの)が影辿りて刈れり夏の草
甚平や天の炎を肩透かし
眼(まなこ)閉づ秋めく風を頬(ほお)に受け
音色良し仕舞忘れの風鈴の
①「忘れ草」たばこの異称と知りてより鬼ユリの顔やわらぎぬわれ
・忘れ草→身につけると物思いをわすれるという (季)夏
・たばこの異称→ 吸えば憂いをわすれるという
②近隣の人は死ねども肉じゃがをわれは食べたり明日を思いて
③どのような人が罪人 特別な人ではないよ沈黙の月
④『つゆじも』の歌集を読めばあはれなりピナテールの名をこころに留む
・ピナテール 仏人。江戸末期文久3年渡来。貿易関係の仕事をしていた父を
追って長崎に来た。時に18歳。恋慕した遊女と結婚。3年ほどで妻は他界する。
彼は大変悲しみ朱塗りの枕を形見に独身を通した。 行年77歳
・『つゆじも』茂吉第三歌集 39歳の作品
長崎の港の岸をあゆみゐるピナテールこそあはれなりしか
⑤台風が千葉を襲いぬ停電の二日目となる冷蔵庫効かぬ
「ふみちゃん」と母を呼ぶ祖母ふみちゃんに戻れぬ母の一瞬の怒り
肉牛を育てし人らに感謝述べ肉料理出すシェフの映像
ニアミスで済まされるのか東京が全壊するほどの隕石過(よぎ)る
「お月様、お星さまの世界よし」と女性評論家テレビに言えり
無表情、笑顔の二種類それ故に威厳があったわが老牧師