小説  NAOKO

礼拝の席に祈りを捧げいる黒づくめの女(ひと)誰かと思う

山小屋のベランダに立てば八ケ岳遠目に見えて病む人(ひと)思う

血縁の強さにややも嫉妬する彼女が父を慕う姿に

影のごと主人公に添い読みゆけば内向きなれど芯強き人

風立ちて枯葉幾ひら重なれり季節思わせ小説終わる

短歌研究年鑑   mohyo

家族らと共に歩みて墓参する段差のところは支えられつつ

洞窟で見つからぬやう母親が子の首しめし沖縄決戦

殺されし子らとわれとは同年代沖縄思ひて夏日浴びをり

夏の草     JUN

日を掴み向日葵の黄は輝けり

己(おの)が影辿りて刈れり夏の草

甚平や天の炎を肩透かし

眼(まなこ)閉づ秋めく風を頬(ほお)に受け

音色良し仕舞忘れの風鈴の

ピナテール   NAOKO

①「忘れ草」たばこの異称と知りてより鬼ユリの顔やわらぎぬわれ

  ・忘れ草→身につけると物思いをわすれるという (季)夏

  ・たばこの異称→ 吸えば憂いをわすれるという

②近隣の人は死ねども肉じゃがをわれは食べたり明日を思いて

③どのような人が罪人 特別な人ではないよ沈黙の月

④『つゆじも』の歌集を読めばあはれなりピナテールの名をこころに留む

  ・ピナテール 仏人。江戸末期文久3年渡来。貿易関係の仕事をしていた父を

   追って長崎に来た。時に18歳。恋慕した遊女と結婚。3年ほどで妻は他界する。

   彼は大変悲しみ朱塗りの枕を形見に独身を通した。 行年77歳

  ・『つゆじも』茂吉第三歌集 39歳の作品

  長崎の港の岸をあゆみゐるピナテールこそあはれなりしか

⑤台風が千葉を襲いぬ停電の二日目となる冷蔵庫効かぬ

わが老牧師  NAOKO

「ふみちゃん」と母を呼ぶ祖母ふみちゃんに戻れぬ母の一瞬の怒り

肉牛を育てし人らに感謝述べ肉料理出すシェフの映像

ニアミスで済まされるのか東京が全壊するほどの隕石過(よぎ)る

「お月様、お星さまの世界よし」と女性評論家テレビに言えり

無表情、笑顔の二種類それ故に威厳があったわが老牧師