過ぎゆくひと日  NAOKO

ザクザクと葱をきざみぬ湯気立ちて炎も見えて過ぎゆくひと日

輪になって人ら真面目に踊ってるフォークダンスは果てなく続く

市役所の福祉課の床。窓に寄る昼の気だるさ立春過ぎぬ

おあいそに小銭の袋を持ち出して姉は並べぬ店のレジにて

噴火雷初めて見つむ噴煙に縦縞光り轟音響く

打たれ強まる NAOKO

立ちはだかる高き柵あり大国への難民の列川のごとかりし

国と国個人と個人の喧嘩あり前者は見知らぬ敵を殺せと

黒船の時代(とき)より今に至るまで大国のもとにはためく日の丸

年齢をふいに聞かれぬ間を置きて「団塊世代」ツルっと蕎麦食う

異質なる友と交わりカチンカチンと打たれ強まる

福寿草    JUN

年迎ふ生くる証の紅を引き

頑張らぬことと日記に福寿草

湯冷めして髪すきし子も母となり

不織布(ふしょくふ)を塞いでをりぬ初氷

夜明け待つゆず湯の柚子に囲まれて

大嘗宮     JUN

冬晴れや大嘗宮の千木(ちぎ)の空

焼き芋の熱さ分け合ふ風呂帰り

冬温し機械の声はみな女声

献血をできぬ齢や玉子酒

旅立ちや街灯灯る冬の朝

電子辞書    NAOKO

靴下も履いてしまった出るしかない団地の集会夕暮れ時を

新しきボーイフレンド才あれど少し短気だ名は電子辞書

黙読に慣れ来し我に辞書からの歌人の音読茂吉を聞けり

キッチンに座りておればテーブルの茹で玉子がつと「たべないの」と聞く

本棚の『赤光』見れば旧制で昭和と書かれわが若き文字

彼方青海    佐野豊子

人はみな悲しみの器。さりながら祈りの卓にフルーツかおる

幾たびのしきりなおしか隠退の老牧師いてその妻われは

ご先祖にうーとうとうと幅広の沖縄線香たて祈る人

集落をまもる備瀬の福木道みどりこみどり彼方青海