昭和の匂い  佐野豊子

だみ声のカラスが鳴いて目が醒めるふたつ命のふれあう一瞬

敗れたり天覧相撲に攻めきれず貴景勝は土俵に腹這う

素枯れ菊ぽきぽき折って焚き火した昭和の匂いは何故か哀しい

子犬の売人  NAOKO

十五万二十七万その値札置かれし後ろに子犬ら眠る

ゆくりなく子犬は屈みいと細き便を落とせり硝子のむこう

区切られし硝子の空間売られいる子犬の床を拭きいる店員

子供には抱っこさせない大人には抱かせるという子犬の売人

相棒の茶色の毛並みその背なに顔寄せ眠る黒毛の子犬

春の息吹    JUN   

男坂超す間を春の息吹かな

梅が枝に春の膨らむ気配あり

白梅や苦労積む子の誕生樹

会釈して行き交ふ小径(こみち)春立つ日

長崎にて  春の川ランタンの灯をたたへをり

ウィルス騒動  NAOKO

ウィルスに休校になりし学童ら二月の末を荷物抱えて

飛行機雲 青空を切る日常にウィルス感染拡大したり

汚れたるマスク転がる枯れ尾花風が吹き越す土手を歩めば

枝のみの桜並木の川沿いにここかしこにぞツユクサの青

逆光に白梅の花翳りたりその一輪に暫くよりぬ

ウィルスの一日も早い収束を祈ります。

優しさ知りぬ     mohyo

言葉こそ大事あなたは強いねと言われ素直に聞きてをり

濡れし肩に吹く風ありて銀座行く太極拳終へ一人の時を

東京弁冷たくきついと気仙沼の友帰りたり三十年前

青森弁語らふ男女の輝きて方言の持つ優しさ知りぬ

蕗の薹     JUN

春風やスワンの舟に雌雄あり

閑居にも春が来た来た蕗の薹

古希の宴しっぽく料理に春の雨

寒鯉の吾関せずと動かざる

終点と呼ばるる駅や寒夕焼(かんゆやけ)