玉子酒  JUN

寄せ鍋や娘夫婦の暮らし振り

山茶花の白鮮やかに犇(ひしめ)けり

閉ざされて雪山静か寒湯治

後悔も弁解もせず玉子酒

含羞も少し手拍子酉の市

追羽根の空に止(とど)まりやがて落つ

羽子板の武者絵の貌(かほ)に羽子の傷

{追録}

(馬場治子さんの「詩人 村野四郎」上梓を祝ひて)
天翔る四郎の鹿や返り花

(郷土の森博物館元館長 横尾友一氏を悼みて)
冬の雁翔(た)ちて郷土の森残る

いろはにほへと  JUN

霜月の星なほ残り夜は明けぬ

結局はひとりの夕べ赤のまま

日光のいろはにほへと山の秋

落日の竹馬長き影が往く

由良川の辺が生地荻の群れ

衣被ぎ衣残さぬやうに剥き

アニバーサリー祝ひ踊るや街は秋

赤き闇  JUN

一隅に赤き闇あり彼岸花

終電の去つて小振りの月残る

松茸を買ふや季節に背を押され

十月の五臓六腑に気は満てり

鰯雲心の襞のあるやうに

新涼や老いの手習ひ周に秘


夕ざれの日を受け止めて柿簾

口笛  JUN

いとど跳ね足一本を残しけり

一山を絡め捕らへて葛の花

釣瓶落し口笛吹いてゐてひとり

月島に夕餉のあかり秋簾

窓辺の物芽  JUN

如月の泥を付けたる葱を買ふ

春めくや時過ぎ行きて子は母に

ひとりぼつち二月の風が雲を追ふ

川の字に布団干されし寒の明け

窓掃除終へし窓辺の物芽かな

三十歳(みそとせ)を通ひし小道日脚伸ぶ

風花が「三億円の道」に舞ふ

み空晴れ山茱萸の黄濃くしたり