春の服  JUN

初島を浮かべてをりぬ春の海

強東風や洗濯物の討ち死にす

電車よりどつと溢るる春の服

朝日浴びぱつと眼を開く福寿草

QRコードのやうな吾が朧

アルトサックス jun

雪降つてアルトサックス鳴く夜かな

まだ固き二月の土に鍬を入れ

春浅し買つたばかりのスニーカー

春泥に歩を進めてやなほ生くる

武蔵野や春立つ光なほ淡し

雛(ひいな)  JUN

北窓を開き童の声近し
島陰にやがて隠れし春の船
ネクタイを選れば銀座は春の雨
年古りて髪抜け給ふ雛かな
野の川に水の戻りて山笑ふ

歌留多  JUN

初風呂や一年振りの湯屋暖簾
小庭にも雀訪ひ来て二日かな
愚図る子をあやして暮るる三日かな
朗々と歌留多読む声父は亡し
唐突に良句授かる湯冷めかな

滅びゆく  JUN

滅びゆく光のなかを秋の川
秋の日や空に柳葉魚の簾干し
紅葉して降る雨明し倉戸山
秋澄みて若き心地の歩を早む

秋思  JUN

秋思ふと睫毛に遊ぶ日の光
吾の居て将(はた)居らずとも野辺の秋
鬼灯のひと恋ふ如く色づけり
鰯雲歌詠み歌を忘れけり

夏野  JUN

夏の野に潮風渡り讃岐富士

ひとのため祈ることあり遠花火

丘の上ホテルは今も巴里祭

登り窯  JUN

伝へたき言葉は胸に梅雨に入る

梅雨空へ煙笠間の登り窯

紫陽花の花を急かせて小糠雨

実をあまた付けて寂しも枇杷の照る