プリズム光    JUN

青空を待ちて白梅緩みけり

公魚の命いただく湖畔かな

丸太橋濡らして行けり春の水

屈折するプリズム光や春愁ひ

思い出は二人別々春の雪

冬木立   JUN

空白の日々こそ重く日記果つ

影落し影を伸ばして冬木立

O脚のデニム干されて冬温し

咳の吾に花梨酒くれしひとのあり

雑念と家を片付け年暮るる

潮騒    JUN

石仏の地肌に沁みる秋の雨

潮騒の海の上なる星月夜

小説より顔を上げたるそぞろ寒


一本の道を飲み込み秋の山


麦とろや土間より上がる大座敷

鬼灯   JUN

道端の小さな声や草の花

鬼灯の赤は鬼灯だけのもの

爽やかやひとつ余分に買ふグラス


名月や聖母を仰ぎ見るやうに

生活の明かり零るる良夜かな

トウシューズ  JUN

身に入むや全て全ては過去の写真集

トウシューズの音静かなり秋深し

朝風や今日を生きよとつくつくし

吸い殻の口紅赤き残暑かな

火の尾引き上がる花火や信濃川

初茄子  JUN

指先に蔕(へた)の痛さや初茄子

選挙権得し孫と飲む麦茶かな

夏の夜の少し動きしマリア像

人知れず幽かな色の虹立ちぬ

聳え立つスカイツリーが炎暑呼び

銀の雨   JUN

平然と生き抜く力羽抜鶏
をだまきや白き空より銀の雨
少女からレディーに脱皮夏帽子
夏服やはにかむ笑みの輝ける
共白髪二つで一つさくらんぼ

花冷え  JUN

花冷えや弔文を書くペンの先

爆ぜんとす虹掠れ行くシャボン玉

ワイパーは三片の花を拭ひけり

初々しい子らの制服四月かあ

中年となりし幼子亀鳴けり