祐次氏の葬儀  佐野豊子

火葬炉の順番八日も待たされて小さな顔の兄(にい)さんさよなら

ご遺体は義兄の魂が脱ぎしもの棺の横の遺影に親しむ

一条の涙がマスクに消えていくアクリルボードの姪を見つめる

宣告は余命一年あたたかく病身さすりし妻娘の手のひら

電話にて姉に頼まる「順番に死のうね」なんて返事にこまる

お宮さん 松岡尚子

リズミカルに君は薔薇より美しと今日布施明テレビにうたう

文化祭にお宮で登場寛一に蹴られた布施君爆笑受けぬ

ステージに演奏をするブラスバンド彼のフルート音色の優し

思い出は雪合戦と武蔵野の木造校舎の暗き廊下と

中学の布施君少し照れ屋にて教室前に女子が騒めく

初茄子  JUN

指先に蔕(へた)の痛さや初茄子

選挙権得し孫と飲む麦茶かな

夏の夜の少し動きしマリア像

人知れず幽かな色の虹立ちぬ

聳え立つスカイツリーが炎暑呼び