鉢植えに雨やわらかし独り居は昼も鍵しめ玄関に出ず
短歌研究10月号島田修三選NAOKO
昭和生まれ夜泣き続きし吾子なれど爆撃音は聞こえなかった
祐次氏の葬儀 佐野豊子
火葬炉の順番八日も待たされて小さな顔の兄(にい)さんさよなら
ご遺体は義兄の魂が脱ぎしもの棺の横の遺影に親しむ
一条の涙がマスクに消えていくアクリルボードの姪を見つめる
宣告は余命一年あたたかく病身さすりし妻娘の手のひら
電話にて姉に頼まる「順番に死のうね」なんて返事にこまる
お宮さん 松岡尚子
リズミカルに君は薔薇より美しと今日布施明テレビにうたう
文化祭にお宮で登場寛一に蹴られた布施君爆笑受けぬ
ステージに演奏をするブラスバンド彼のフルート音色の優し
思い出は雪合戦と武蔵野の木造校舎の暗き廊下と
中学の布施君少し照れ屋にて教室前に女子が騒めく
初茄子 JUN
指先に蔕(へた)の痛さや初茄子
選挙権得し孫と飲む麦茶かな
夏の夜の少し動きしマリア像
人知れず幽かな色の虹立ちぬ
聳え立つスカイツリーが炎暑呼び