冬晴れ  佐野豊子

冬晴れに〈清バス〉が来るよろよろと一期一会の二、三人乗る

もういない農家の庭の落柿さえ食べたかったひもじい少女は

金婚の夫婦が散歩に誘い合いあっちとこっちへ歩きだすなり

食前の祈りは三人まわりもち「カレーが冷める母さん長すぎ」

正月も感染力はパワフルで『コロナ禍歌集』まだ現在形

春立つ光  JUN

まだ固き二月の土に鍬を入れ

春浅し買ったばかりのスニーカー

春泥に歩を進めてやなほ生くる

武蔵野や春立つ光なほ淡し

雪降ってアルトサックス鳴く夜かな

長谷川祐次兄  NAOKO

結婚の承諾受けんと訪ね来て父母に向かえりかの日の義兄

炬燵にてリラックスする妹ら彼の言葉に緊張したり

県立の校長たりし若き日に宮柊二のもと歌にはげみぬ

喪主として姉は立ちたり挨拶に夫のもので捨てるものなしと

讃美歌を歌い祈りぬ兄妹ら兄の棺に胡蝶蘭を納む