「もういちど もういちど」   佐野豊子

八重岳の蝶にあいたし千葉(せんよう)の言葉つやめくおきなわの雨季

雨粒に取り出すバッグの底の底 沈没船のような古傘

深海に暮らすはずの〈釣り目鯛〉われに食われて媼になるかも

もういちど もういちど」と真夜に聞く昭和歌謡に人の恋しさ

キリストの脇腹を突く槍の先したたりやまずたとえば辺野古

石榴口(ざくろぐち) NAOKO

石榴口江戸の銭湯入り口が狭くて屈みするりと入れり

湯の温度下がるを防ぎ湯の前に石榴口を設けしという

湯舟から石榴口抜け流し場へ移りし客ら何かおもしろ

江戸と京いずれも華麗な形生み明治の初期まで存続せしと

石榴の実絞りて取りしその汁で流し場のかがみを磨きていたり