ピナテール   NAOKO

①「忘れ草」たばこの異称と知りてより鬼ユリの顔やわらぎぬわれ

  ・忘れ草→身につけると物思いをわすれるという (季)夏

  ・たばこの異称→ 吸えば憂いをわすれるという

②近隣の人は死ねども肉じゃがをわれは食べたり明日を思いて

③どのような人が罪人 特別な人ではないよ沈黙の月

④『つゆじも』の歌集を読めばあはれなりピナテールの名をこころに留む

  ・ピナテール 仏人。江戸末期文久3年渡来。貿易関係の仕事をしていた父を

   追って長崎に来た。時に18歳。恋慕した遊女と結婚。3年ほどで妻は他界する。

   彼は大変悲しみ朱塗りの枕を形見に独身を通した。 行年77歳

  ・『つゆじも』茂吉第三歌集 39歳の作品

  長崎の港の岸をあゆみゐるピナテールこそあはれなりしか

⑤台風が千葉を襲いぬ停電の二日目となる冷蔵庫効かぬ

わが老牧師  NAOKO

「ふみちゃん」と母を呼ぶ祖母ふみちゃんに戻れぬ母の一瞬の怒り

肉牛を育てし人らに感謝述べ肉料理出すシェフの映像

ニアミスで済まされるのか東京が全壊するほどの隕石過(よぎ)る

「お月様、お星さまの世界よし」と女性評論家テレビに言えり

無表情、笑顔の二種類それ故に威厳があったわが老牧師

雨の白梅  佐野豊子

ぶきっちょと母に叱られ折鶴の翼のはなより鈴なりわたる

また闇に雨音のして空気冷えもう寝よかとみずからに言う

どうにでもなれとトラック右折して雨の白梅枝ごと落とす

おぼろ月むかしの人の心には菜の花さいて詠み人知らず

顔をよせ桜一輪みてあればかわいいさくらやまとのさくら

夕日に映ゆる   JUN

ひと去れば夕日に映ゆる夏みかん

濃紺の光纏(まと)ふや初茄子(なすび)

世間とは付かず離れず昼寝かな

屯田兵(とんでんへい)拓(ひら)きし村や南風曇(はえぐもり)

木道の九十九折(つづらお)れるや水芭蕉(みずばしょう)