月: 2017年8月

ゆゑ知らぬ不安込み上ぐ春の朝開花予報のテレビ見てをり

地植えして数年咲かざりし紫陽花の今年は五つ桃色に咲く
老いてまた忘れたはずの引き揚げの恐怖ふたたび電車に揺らる
何も無い日を楽しまな菓子喰らひ刑事ドラマを次々に観る

「頼むよ」と亡き義母の声入れ歯取り笑む夫の口優しさ増せば

二葉づつ蔓は伸びゆきマンデビラのピンクの花が夏空に向く
焼き鳥の煙流れて模擬店のビール売れゆく盆の祭りに

5月号
春の雲ふわりと浮かびわが影を踏みつつ帰る幼き日のごと（米川千嘉子選）
6月号
七十四歳「ブルー・シャトウ」の歌声に腿上げ手振れば青春のわれ（米川選）
7月号
指先の力弱まり丁寧に切り口見つけ菓子袋開く（永田和宏選）
老木の樹皮押し破り咲く桜とどまり見つむ一人遅れて（永田和宏選）

秋日和二等空佐の教え子はけふ宮中に勲章を受く
ドトールのコーヒー啜り妻を待つ夕餉の惣菜荷物もつため
印象派ゆずりのタッチと明るき色彩（いろ）はゴッホの自画像細長き顔
晴嵐わたる比叡山（ひえい）の十五キロはるか眼下に近江の海（み）見ゆ