真夜中のいびきのあひ間に聞こえくる世界の天気に旅の日思ふ
ジャコバサボテン 松岡尚子
一瞬をバイクが過ぎぬ夜の更けて歌作らんと静かに居るを
残酷に過ぎゆく時間ベランダのジャコバサボテン花咲かせたり
「うるさいなあ』 と思ってしまふ注意され説教されて叱らるるとき
短歌研究09 1月号 永田和宏選 mohyo
後ろだて無き浮舟の幸せを老後の不安と重ね読みゆく
浮舟に つきこし人らの老後など語られず帰るもどかしきなり
穂芒の群 松岡尚子
暗唱の番号いとも易き故変へよと画面に注意されたり
甘みなき林檎を切りてレモン汁グラニュー糖で煮込みぬ今朝は
向ひ来るヘッドライトに浮き立て淡くきらめく穂芒の群
雨あとの蛙 松岡尚子
大雨が豪雨となりてアスファルトを打ち叩くなりレストランの前
雨あとの自転車ハンドルに坐してゐる小さき蛙を左手に受く
机の前の壁に貼りゐし折り紙の蝉三つ外す秋風吹きて
太宰のこと 松岡尚子
禅林寺に常に太宰が居るような・・・。墓とは不思議な力を持つなり
自らが持てるすべてのものを差し出し共に逝きたるをみなを思ふ
誘われて死なんと答ふる男ありや瞬時よぎりぬ男女の違ひ