幸せはぬくきものかも湯タンポを足で探していねし夜
心象の風景 空っ風
いくつかの季節はすぎて白っぽく腐れゆきたり裡なる樹木
ひっそりと空気の中に眠りゐる吾が心象の貧しき風景
欲りてゐし少年期への憧憬はやさしく芽吹く草の影にも
海を恋ひ少年期を恋ひひとを恋ふ北国の朝の春あさき空
白みゆく夜の眠りに写りたり雪原(ゆきばら)を駈けし汝が後姿(うしろで)
幻覚の世界にあそびし春の朝V・ゴッホと渡りき「アルルの跳ね橋」
野分だつ浅間の原に生きてゐし吾が瞑想録はまだ<青>もてり
残雪の谷川岳にむかひて叫ぶ”キエルケゴールを超へてゆくべし
雛(ひいな) JUN
北窓を開き童の声近し
島陰にやがて隠れし春の船
ネクタイを選れば銀座は春の雨
年古りて髪抜け給ふ雛かな
野の川に水の戻りて山笑ふ
短歌研究三月号(岡井隆選)
イブの日は配達人まで軽やかにピョコンと頭をさげて去りゆく