心象の風景  空っ風

いくつかの季節はすぎて白っぽく腐れゆきたり裡なる樹木

ひっそりと空気の中に眠りゐる吾が心象の貧しき風景

欲りてゐし少年期への憧憬はやさしく芽吹く草の影にも

海を恋ひ少年期を恋ひひとを恋ふ北国の朝の春あさき空

白みゆく夜の眠りに写りたり雪原(ゆきばら)を駈けし汝が後姿(うしろで)

幻覚の世界にあそびし春の朝V・ゴッホと渡りき「アルルの跳ね橋」

野分だつ浅間の原に生きてゐし吾が瞑想録はまだ<青>もてり

残雪の谷川岳にむかひて叫ぶ”キエルケゴールを超へてゆくべし

雛(ひいな)  JUN

北窓を開き童の声近し
島陰にやがて隠れし春の船
ネクタイを選れば銀座は春の雨
年古りて髪抜け給ふ雛かな
野の川に水の戻りて山笑ふ