眠たくて  佐野豊子

神の御手しずかに母をつつむらん周りの人をだんだん忘れ

雲うかぶここはどこかなちんちろりん虫鳴く夜の新秋津駅

眠たくて脳天の上の三日月にすみぬるような黒い横雲

赤き闇  JUN

一隅に赤き闇あり彼岸花

終電の去つて小振りの月残る

松茸を買ふや季節に背を押され

十月の五臓六腑に気は満てり

鰯雲心の襞のあるやうに

新涼や老いの手習ひ周に秘


夕ざれの日を受け止めて柿簾

ちんぷんかんぷん  佐野豊子

いつか死ぬ夜のかがやきか野花より発光したり蛾のりんぷんは

ひふ癌のがんこに消えることもなし母のかたほほ黒点育つ

終生をささえつづける弟(おとと)さえ母は花木瓜ちんぷんかんぷん

写真数枚  オリーブ

姑の行く老人ホームはワンルーム
持ちゆくなかに写真数枚
(オリーブ)

原作
姑の行く老人ホームはワンルーム持ち行く物に数枚の写真

ひゃら
「持ち行く物に」では、写真だけもっていくように強調されますので、「持ち行くなかに」ではどうでしょう。

ひゃら
「老人ホームは」と「数枚の写真」は8音、破調になっています。

ひゃら
「老人ホーム」は名詞です。長い名前もありますので、破調になるのは仕方ないですね。「高齢者ホーム」ともいいますね。

ひゃら
「数枚の写真」は「写真数枚」と語順をかえ定型の7音をまもることで、歌が締まります。
散文と歌のちがいです。定型にしましょう。

作者
破調でもいい場合と、
語順をかえて、定型をまもることを学びました。

豊子