手毬  佐野豊子

哀しみをけとばしている入院の母のかたえに向日葵として

転院をすすめる医師と聞く家族てんてん手毬の母ホームレス

聖書には発見多し「初めに言があった。言は神とともにあった。」

ムエタイ  佐野豊子

ムエタイの脚のながさは差身なしの魔裟斗(まさと)の腹を蹴りつき勝利す

沈黙のハイビスカスは炎天下たちまち勢うバケツの水に

廚ごと苦手なりしを主婦という隠れ蓑にてわたるハネ橋

伝説  mohyo

洋式のトイレ希望す足長の少女はスタイル、吾は膝痛で

伝説を妹言ひぬ白髪の母に黒髪のあまた生えきて

その夫を「ツレ」「ダンナ」とふ車内にて「連れ合ひ」といふひびき吾に沁む

口笛  JUN

いとど跳ね足一本を残しけり

一山を絡め捕らへて葛の花

釣瓶落し口笛吹いてゐてひとり

月島に夕餉のあかり秋簾

梓川  井手麻千子

樹々の間を赤ゲラ行きつ戻りつす

息のみ見守る小淵沢の宿
(井手麻千子)

原作

赤ゲラが行きつ戻りつ樹々の間を息のみ見守る小淵沢の宿

ひゃら
珍しい鳥を見たときの心躍りがつたわります。

表現がぶつぶつ切れて言葉の省略が気になりました。

作者
宿の窓から赤ゲラを見つけたときは感激でした。友人と息をつめてみていました。

ひゃら
見たもの、感激したものを、率直に歌いだすことは、よいことです。まず歌ってみる。そのあと、言葉のつながりや、律、意味がつたわるか、推敲が大切です。

作者
いろいろ考えました。

ひゃら
語順や意味からゆくと「樹々の間を 赤ゲラ、、、、」と歌いはじめると安定してきます。

ひゃら
歌は散文ではありませんが、この歌の場合は、赤ゲラが行きつ戻りつ(スル)という動詞が省かれています。

語順をかえることで「戻りつす」と動詞をいれることができます。

作者
語順をかえることを学びました。

浮雲  佐野豊子

誰からも遠ざかりつつ火のついた浮雲のよう足暖める

断罪をくだして樫をかなします魔物めきたりわたくしの声

あけぼのの目覚めの鴉かわかわと幼いままに濁声に鳴く

意味もなくなつかしくなる向日葵の茎の太さに真夏の昭和

夢に見しもの   mohyo

クリップの6個が2列に並びゐてクリップパクパク歌ふ夢見つ

亡き祖母が吾(あ)の枕辺で帯を解く夢より覚めて泣き心鎮む

大き魚(うお)に吾はまたがり糸満の湾に着きしが魚死にし夢