さくら  mohyo

老母と今年もさくら見上げつつさくら並木を去りがたくをり

大声でひとりごといひ女行く背にさくらばな幾ひらつけて

暗雲に蔽われてゐる満開のさくら眼に顕つ白白として

夜桜にこころわななくICUの酸素マスクの母を思ひて

六月   hataoto 

蝶を曳く蟻の続かる足元の土すでに温もる六月の朝

朝の庭に蝶の骸の曳かれゆく立てたる羽根に風を受けつつ

柚子の葉の緑に染まり這ふ虫は綿毛のごとき白き巣を作る

開き置く窓より入り来揚羽蝶古びし壁に絵となり止まりぬ

紫陽花の花鞠青く薄紅にでで虫這へば白蝶の舞ふ

ごみとして捨てられしかくはがたの開けしままなる大き角なる

みちをしへあるいは吾に方角を故意に過ち導き来しや