窓辺の物芽  JUN

如月の泥を付けたる葱を買ふ

春めくや時過ぎ行きて子は母に

ひとりぼつち二月の風が雲を追ふ

川の字に布団干されし寒の明け

窓掃除終へし窓辺の物芽かな

三十歳(みそとせ)を通ひし小道日脚伸ぶ

風花が「三億円の道」に舞ふ

み空晴れ山茱萸の黄濃くしたり

福寿草  ふーしゃん

96年の作品

内暗く老樹の立つを境界に外人墓地をUターンせり

楽(がく)にのり世界各地の人形がわが前を通る平和なるかな

国分寺よりタクシーに乗りナイターを知らざる若き運転手に会う
忠実に今年も咲ける福寿草花数殖えていきいきとせり

自転車  松岡尚子

施設より借りし自転車前かがみの若向きの故われには合わず

おのが身の一部とはなる自転車を自分の金で買わんと決めぬ

朝より夕刻までを待ちくれし駅の自転車にごめんねと言ふ

夜を継ぎて粉雪降るに自転車はこほれる如く我を待つなり

寒ければ自転車止めて自販機の缶珈琲で手を温むる