2003年4月

2003年4月

親しみ 投稿者:朋子 投稿日:2003/04/30(Wed) 02:12 [1590]

言葉持たぬ息子(こ)は気管内挿管に腫れたる喉の痛みを告げえず
酸素マスクはづせし息子の額より苦痛の皺消え癒えゆく兆し
見舞いくれし日頃優しき先生に言葉無き息子の満面の笑み
施設にて数多の若き先生の優しさを享く 麻痺の息子と生き
身を守る術を知らざる息子に癒され四十年を共に歩みき
十日目の病室(へや)の掃除終へ乙女子は息子の名など問ひ親しみを寄す
病室の掃除に見えし乙女子の鄙ぶる風情懐かしきかな

アブチロン 投稿者:秀子 投稿日:2003/04/29(Tue) 19:59 [1589]

路地裏の公園ひそと静もりてアブチロンの赤フェンスに揺るる
蝶一つ柚子の葉陰を過ぎり来て心もとなに消えて行きたり
丸々と太りし毛虫の身じろがずフェンスにへばる風強き朝

蓮華草 投稿者:秀子 投稿日:2003/04/15(Tue) 21:33 No.1577

騒音の途切ることなき道路脇に蓮華草の花疎らに咲けり
新緑の葉の勝りたる桜木は花の名残りを僅か留めり
郊外の麦畑より見晴るかす巨大”ビッグアイ”鎮座まします

声持たぬもの 投稿者:百合子 投稿日:2003/04/15(Tue) 01:24 No.1576

考へは幾変わりして果つるなく森より翳る山鳩の声
声持たぬものの哀しさ水槽の数多の魚に凝視されたり
いくばくの悔いを残して帰り来るうつしみの目にゆふづつ赤し
風吹けば忽ち崩(く)ゆる危ふさを持ちて一輪冬薔薇(ふゆそうび)咲く
たまゆらを心ときめく引き出しのいまだ捨てざる古りし恋文
さびしさなど持たざる吾と思ひしに寂寥の歌詠むこと多く
かさかさと帰る土なき枯葉舞ひ初冬の街は白く乾けり

杳き歳晩 投稿者:昭江 投稿日:2003/04/13(Sun) 23:12 No.1575

指(おゆび)折り正月を待つ幼日の夢はふくらみ蘇りくる
大き臼を土間にしつらふ男衆の三本杵の餅搗くリズム
「二た臼目はお供え餅よ」と母の声 明るき家ぬち杳く響けり
父・母の今年の方位話しつつ歳神の棚定めて釣りぬ
父綯(な)ひし注連縄(しめなわ)部屋に張り巡り常とは違(たが)う浄き場となる
歳神を迎へし棚に手を合はせ新年の幸共に拝(おろが)む
習はしを守りて厚き昔日のなべての事ども現(うつつ)に遠し

花の命 投稿者:mohyo 投稿日:2003/04/11(Fri) 23:18 No.1574

今日からは昨日の続きではなくてタンポポの綿毛落ちるまで見つ
枝・幹は確かなる明日持っていて今時満ちて桜花のみ散る
爪切ってヤスリあてつつ昼間見し千鳥が淵の桜花思えり

吉四六の里 投稿者:秀子 投稿日:2003/04/11(Fri) 22:55 No.1573

しとしとと雨の降り継ぐ野津を訪い散り逝く桜を歌友と愛でし
濡れそぼつ桜の花は霞み立ち吉四六の里はゆっくりと春
歌会の友と酒交わす野津の里そぼ降る雨に桜静けし

河原にて 投稿者:秀子 投稿日:2003/04/08(Tue) 22:50 No.1572

川土手のまだ柔らかき草むらを小鳥の雛のさえずり聞こゆ
川上るカヌーの子らに気合入る女性コーチはメガホン叩きつ
作業着の男性四、五人輪になりて土手の下にて花見酒せり

餅つき 投稿者:澄江 投稿日:2003/04/08(Tue) 12:48 No.1571

嫁ぎ来て杵つき餅で三十余年今年の餅はスイッチでポン
何十年杵音響いた餅つきに安堵と寂しさ入り交じりおり
甥っ子が丸めて作る供え餅そっと直して我叱られたり
小荷物に一輪入れし蝋梅が北国に春を告げたとの便り
床の間の万両の実が鳥ならぬ孫の小指で啄まれおり
野草にて七草粥を炊き上げる今年粥はニューフェイスなり
熟れメロン庭木に刺せばヒヨ、メジロ喉を潤し来客絶えず

桜 投稿者:露壜 投稿日:2003/04/07(Mon) 22:21 No.1570

お久しぶりです。

更けゆけば紅の艶ます桜花
君は何処の花を愛でるや

三月の 投稿者:noriさん 投稿日:2003/04/06(Sun) 14:03 No.1569

車椅子妻が押し呉れ径行けば桜散り初め共に仰ぎぬ
散り初めし桜の花を惜しむよに車椅子止め妻と眺むる
空気さえ桜の色に染まりそな春日の午後は霞たなびく
鶯の声聞かざれば淋しけれ梅の花咲く季(とき)は過ぎるに
去年吾と鳴き声競いし鶯ぞ今年は来鳴かず春は過ぎつつ
壷に有る妻が自慢の梅干を刺激を求めひとつ頬張る
外は雨戦争報道恐ろしくテレビを切りて部屋に独り居

寒稽古 投稿者:フサ江 投稿日:2003/04/05(Sat) 23:07 No.1568

薙刀の寒稽古せし戦時下の学徒にありし遠き日おもふ
「エイ ヤア」と裂帛(れっぱく)の声ひびかせて薙刀指導の若き女教師
女教師の薙刀指導 掛声のすがすがしきよ今わが耳朶(じだ)に
流氷の南下して来しオホーツクの空灰色に冬を閉じ込む
ゴジラ遂にアメリカ上陸 ヤンキースのユニホーム姿よく似合ひたり
満塁のここぞと思ふチャンスにも空振りなりし松井気づかふ
一生の夢と希望を託したる松井の渡米つつがなくあれ!!