ふーしゃんの短歌ワールド
┏☆★☆━━━━━━━━━━━━32号 2003年5月28日 by もひょ ┓
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★☆★☆★ ふーしゃんの短歌ワールド ★☆★☆★
われわれは作品によってみずからの生を証明したいと思う。□ 宮 柊二 □
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次号は6月中旬予定
ふーしゃん(母)は短歌結社『多磨』の北原白秋に師事。『コスモス短歌会』 故 宮 柊二先生に師事現在にいたる。台北第一高女を経て台北師範卒。小学校教員を数年経験後,軍医であった父との結婚により退職。日本基督教団東京府中教会員。
桃の莟 投稿者 ふーしゃん
・銭湯に行かなくなりて幾年(いくとせ)か肌に触れ合うこともなくなり
・わが庭に桃の木一本直(す)ぐに立ち莟は固く固く結べり
・何もせず早く眠たし歌三首すぐにできるわ 一時間経つ
奥村晃作
1首目。下の句がやや分かりにくいですね。
2首目。少し、手を入れさせていただきます。
・わが庭に桃の木一本直(す)ぐ立ちて莟は固く固く結べり
台北 投稿者 ひゃら
・台北はくぐもるように曇りおり記憶になけれど吾の生まれ国
・わが母を台湾人と思いこみ育ちし十代秘密めきたり
・偶然に見つけた一瞬神(しん)冴える母のルーツ台湾長老教会
・総督府その隣接の一高女わかき母に会えそうな街
・ホテルより台北街を見てもだす朱塗り御殿のやや疲れ雛
・酒漬けの蜆貝なり口すこし開けしを割きてきりもなく食ぶ
・空港で買うみやげもの酒たばこ革命のない定番のチョコ
ヨチヨチきたる 投稿者 mohyo
・母は母 私は私の癖あれば部屋を違えて夜を眠りぬ
・冷えぬよに老母(はは)は毛布を引きずって我に掛けんとヨチヨチきたる
・暖めたタオルを腹に巻けばよい老い母毅然わが母となる
・ドア・障子開け放ち寝るを目覚めたる老母(はは)真夜中に全部閉めおり
・昨日より元気なすり足老い母と手伝わずして眠りにいりぬ
・ぬばたまの夜のしじまに亡母恋ふ秀子氏のこと思ひつつ寝る
・母が言ひわが書き留めて母の歌完成までの道のりたのし
・「今度いつ?」帰る娘に聞く習い老母(はは)はそのとき元気な振りする
秀子
mohyoさん、母親ほど有難いものはないですね。
幾つになっても、介護してもらう立場にあっても、子供のことが気にかかるのですね。
”秀子氏”とは不肖私のことですか?
mohyoさんのお歌に詠んで頂き、光栄です。じ~んとしてしまいました。
お母様少しお元気になられ嬉しいですね。
mohyo
今日は元気でした。最近は元気が続いており安心しています。
博多にて 投稿者 秀子
・聞え来る聞くとはなしの娘の電話わが知らざりき娘の世界
・カレー屋の店に入れば薄暗く老夫婦のみ客を待ちおり
・立ち寄りし老人夫婦のカレー屋のガランと暗く椅子整いし
・食べ終えし頃見計らい注ぎ足しぬ笑顔の老女の生ぬるき水
・夕方に雨の上がりし博多の街はどんよりとして風の冷たし
奥村晃作
1首目の「娘」の読みはどうなっているのでしょうか?
表現にほぼ難のない次を採りたいと思います。
・夕方に雨の上がりし博多の街どんよりとして風の冷たし
秀子
奥村先生、いつもありがとうございます。
「娘」を「こ」と読むのは無理ですか?
また一首の中で、「こ」と読んだり、「むすめ」と読んだりしてはいけませんか?
教えてください。
奥村晃作
娘はムスメと詠むべきです。でも短歌は一方において音数(5音・7音)を守らなくてはならないから、その場合、コの詠みも(現在では)は許容されます。また貴作における如くルビは打たなくてもかまいません。
だが、一首の中でムスメと詠み、コと詠むのはまずい。統一しなくてはならない。さあ、どうする。ここから推敲(真の意味での表現活動)が始まるわけです。力を尽くしてベストの表現を追求します。
その努力を放棄する態度を「作りっぱなし」と呼んで教室の生徒さんには戒めています。
どうもここのところの表現はおかしいのだが、と知りつつ、思いつつ、とことんの表現追求しないままに作品を公表する場合も「作りっぱなし」と呼んでわたしは非難(指導)しています。そこやらなかったらいつまでたっても作歌力はつかないし、表現の(歌を作る事の)本当の喜びにあずかれないではないですか。力を尽くしてもベストの表現に届かない、その上でなら「おかしい、へんだ、じゅうぶんでない」と知りつつ提出(公表)する事はかまいません。「作りっぱなし」か「力を尽くした上での表現の不備」かは見る人が見れば分かります。歌はことほどさように難しい詩形式・表現形式なのです。奥が深いのです。
秀子
先生、ありがとうございます。
苦笑しながら読ませていただきました。
「作りっぱなし」、耳が痛いです。
頑張ってみます。
今後ともよろしくご指導くださいませ。
四月の歌より 投稿者 noriさん
・世の中に戦争あれど無縁にてあなた任せで早や四月(よつき)過ぐ
・朝毎に「行ってきます!」と声がして吾は見送るピラカン越しに
ピラカン=ピラカンサス
・孫が手を繋ぎて呉れる嬉しさに麻痺する手にも温もり感ず
・祖母逝きて四十五年の時経てど草もちの味今も確かに
・頬染めて吾に呉れんと可愛い手に蓮華の花の懐かしきかな
・去年(こぞ)はまだ歩けたものを今日の吾は妻に押さるゝ車椅子に在り
・卒なりし一人一人の名を呼べば胸熱くなり夜更けに目覚む
奥村晃作
次の2首採らせていただきます。
・孫が手を繋ぎて呉れる嬉しさに麻痺する手にも温もり感ず
・去年(こぞ)はまだ歩けたものを今日のわれ妻に押さるる車椅子のわれ
親しみ 投稿者 朋子
・言葉持たぬ息子(こ)は気管内挿管に腫れたる喉の痛みを告げえず
・酸素マスクはづせし息子の額より苦痛の皺消え癒えゆく兆し
・見舞いくれし日頃優しき先生に言葉無き息子の満面の笑み
・施設にて数多の若き先生の優しさを享く 麻痺の息子と生き
・身を守る術を知らざる息子に癒され四十年を共に歩みき
・十日目の病室(へや)の掃除終へ乙女子は息子の名など問ひ親しみを寄す
・病室の掃除に見えし乙女子の鄙ぶる風情懐かしきかな
移る季節 投稿者 絢子
・亜麻色の枯野を犬は一点の光りとなりて遠ざかりゆく
・輝けるもの少しずつ遠くなる頃となりしか我も季節も
・風花のたゆとうさまに白き蝶枯野ゆきゆく我を離れず
・頬を埋む黄のマフラーに止まりたる蝶とわけあう陽の温とさを
・日も風も細りし草もそれぞれに移る季節の色に染まれり
・われを目指しひたすらなるもの未だある光りをまとい走りくる犬
鳩の遠鳴き 投稿者 史人
・朝餉する窓辺の椿に初鳴きす鶯一羽枝伝ひつつ
・木々芽吹き陽も暖かき昼下がり鳩の遠鳴き眠りを誘ふ
・鮮やかな緋色に映える君子欄を大きく画帳に描き終へたり
・毎日の習ひとはなる起き抜けの仏語講座のラジオ番組
・朝いちばんラジオ講座のフランス語寝惚け眼でテキストを開く
奥村晃作
久しぶりにおじゃましました。
史人さんの作。少し手を入れて、2首採りたいと思います。
・木々芽吹き陽ざしの温き昼下がり眠りを誘ふ鳩の遠鳴き
・鮮やかな緋色に映える君子欄画帳に大きく描き終へたり
さまよいつつ来ました 投稿者 新野まりあ
・いつの間に母の面影受け継ぎて母の声にて子を叱りいる
・胸にひとつだけの乳房をかき抱きもう一度愛を確かめたいけど
奥村晃作
2首目が特に宜しいと思います。
俳句で御免2003-5 投稿者 JUN
・うかうかと春野に在りて祖父となる
・鎌倉は全山若葉孫生まるる
・一人行く山路の行方著我(しゃが)の花
・茶房には古きジャズの音修司の忌
・ガラス鉢曇らす春のサラダかな
奥村晃作
二句目の「る」は要らないのではないでしょうか。(みな面白いです)
・鎌倉は全山若葉孫生まる
JUN
ご指摘の通りだと思います。原句も、そうなっていましたが、事前に見た祖母(早い話が、私の妻)から、「埋まる」みたいでいやだとクレイムがありましたので、関係者(?)の意向を尊重し、敢えて破調に変更したものです。力強い見方が出現したので、今後は原句で通したいと思います。有難うございました。
あとがき
編集のたび
歌の強さに感動したり、グッときながらこころの模様をメルマガに織りなす
(ゆ)