青空を待ちて白梅緩みけり
公魚の命いただく湖畔かな
丸太橋濡らして行けり春の水
屈折するプリズム光や春愁ひ
思い出は二人別々春の雪
冬木立 JUN
空白の日々こそ重く日記果つ
影落し影を伸ばして冬木立
O脚のデニム干されて冬温し
咳の吾に花梨酒くれしひとのあり
雑念と家を片付け年暮るる
鶴の舞橋 JUN
山の辺の空の青さや木守柿
残り二枚十一月のカレンダー
鶴に会ふ鶴の舞橋渡り来て
掲げられ熊手手締めの中にあり
下駄履いて脇見歩きの小春かな
潮騒 JUN
石仏の地肌に沁みる秋の雨
潮騒の海の上なる星月夜
小説より顔を上げたるそぞろ寒
一本の道を飲み込み秋の山
麦とろや土間より上がる大座敷
鬼灯 JUN
道端の小さな声や草の花
鬼灯の赤は鬼灯だけのもの
爽やかやひとつ余分に買ふグラス
名月や聖母を仰ぎ見るやうに
生活の明かり零るる良夜かな
いろいろなうた松岡尚子
春服の青年像の下半身なしさらば青春と塚本詠みぬ
音高く花火は上がり恋の身を尽くすとうたう中城ふみ子
死はそこに抗いがたく立つゆえにひと日いづみと上田三四二は
桃食いて去りゆく夏を惜しむひと石川不二子をめぐる四季あり
生き死にの外なる橋をわたるとう築地正子イデアの世界
トウシューズ JUN
身に入むや全て全ては過去の写真集
トウシューズの音静かなり秋深し
朝風や今日を生きよとつくつくし
吸い殻の口紅赤き残暑かな
火の尾引き上がる花火や信濃川
短歌研究10月号島田修三選mohyo
鉢植えに雨やわらかし独り居は昼も鍵しめ玄関に出ず
短歌研究10月号島田修三選NAOKO
昭和生まれ夜泣き続きし吾子なれど爆撃音は聞こえなかった
祐次氏の葬儀 佐野豊子
火葬炉の順番八日も待たされて小さな顔の兄(にい)さんさよなら
ご遺体は義兄の魂が脱ぎしもの棺の横の遺影に親しむ
一条の涙がマスクに消えていくアクリルボードの姪を見つめる
宣告は余命一年あたたかく病身さすりし妻娘の手のひら
電話にて姉に頼まる「順番に死のうね」なんて返事にこまる